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      <title>*vitalage*text</title>
      <link>http://vitalage.cc/text/</link>
      <description>Tiger＆Bunny、咎狗の血、ペルソナ４メインのテキストサイト</description>
      <language>ja</language>
      <copyright>Copyright 2012</copyright>
      <lastBuildDate>Mon, 16 Jan 2012 21:20:31 +0900</lastBuildDate>
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         <title>俺ウサお疲れさまでした</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.youyou.co.jp/only/hero/rabbit/" target="_blank">俺のウサちゃん</a>、参加された方はお疲れさまでしたー。
新刊見送ってしまったのですけれど、楽しく参加してまいりました。どっち向いても虎兎ーおおおおー。あ、pixivにお品書き載せていたのですが、当日は「悪趣味な美学」高殿円さんの御本と、「SugarTrap」和深ゆあなさんの御本をお預かりしておりました。机の上が華やかに虎兎になってすごく嬉しかったです。
華やかと言えば、コスプレ可だったので、通路がとても華やかで！　さすが虎徹さんとバーナビーが多かったですけれども、ホァンちゃんとか、アニエスさんとか見た！　あと、誕生日のウサギ（笑）最初蛍光ピンクの等身大ウサギがすたすた歩いて来たので「！？」と思いましたが（存在感半端ない）なんかすごい仕草が可愛かった（笑）スペースにいて思わず目が合った（ような気がした）ので手を振ったら、きゃっきゃと返してくれました（笑）

次はヒーローショウですね。イベントが多くてなんだかあっという間です。]]></description>
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         <pubDate>Mon, 16 Jan 2012 21:20:31 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>最終お品書き</title>
         <description><![CDATA[pixivにアップしました。自分のWebにも載せたんですけど、pixivの方が作業楽です……タグすっかり忘れてる。一応、直リンク。

・<a href="http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=23949871" target="_blank">最終お品書き</a>
・<a href="http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=661773" target="_blank">Less is more文字サンプル</a>Tiger＆Bunny、虎兎、18禁要素アリ
・<a href="http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=696074" target="_blank">Union is Strength文字サンプル</a>Tiger＆Bunny、オールキャラ、全年齢向け

てかんじです。それから、お買い上げいただいた方に透明カードのノベルティがつきます。（なくなり次第終了です）
<a href="http://www.toranoana.jp/mailorder/cot/circle/07/11/5730303931313037/766974616c616765_01.html" target="_blank">虎の穴さん</a>は<s>いつの間にか予約が締め切られてしまっているのですが、納品数はまだ全然余裕があるので、30日以降に買えるようになるんじゃないかと……思います。店舗分と納品後に取っておく、みたいな計らいなんですかね。ポータル使うの初めてなのでわからないのですが。</s>【追記】再開してました。なんだったのか。
当日はのんびりしていると思われますので、大変なサークルさんのお買い物後にお立ち寄りいただければとー。

ちょっと掌編書こうと思っていたのに、なんだか急に仕事がガガガっと……おかげさまでクリスマスと暮れと正月が消失……＿|￣|○　あ、<a href="http://www.youyou.co.jp/only/hero/rabbit/" target="_blank">俺のウサちゃん</a>のスペースももらえました。スペースNO-J6です。新刊厳しいかなあ……ううむ。]]></description>
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         <category>001new</category>
         <pubDate>Wed, 28 Dec 2011 03:15:58 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>Union is strength</title>
         <description><![CDATA[<img src="http://vitalage.cc/order/union/images/unionisstrength.jpg" border="0" class="img_L" alt="bookimage" /><strong>発行：</strong>2011年12月30日
<strong>価格：</strong>700円 
<strong>サイズ： </strong>A5 （ フルカラー／オフ ）
<strong>ページ：</strong> 62P
<strong>【販売予定】</strong>

「Tiger＆Bunny」のオールキャラクター、小説本です。関個人誌。Tiger&Bunny、オールキャラクター本です。セブンマッチ後、ヒーロー達それぞれの、クリスマスまでのお話をオムニバス形式でお届けします。

表紙と挿絵を<a href="http://elanblade.com/" target="_blank">ほづみりや</a>にお願いしました。

冬コミでノベルティ配布します。（なくなり次第終了となります）
また、<a href="http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/01/53/040030015358.html" target="_blank">とらのあなさんで通販をお願いしています（事前予約あり）。</a>]]></description>
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         <category>list</category>
         <pubDate>Thu, 22 Dec 2011 01:35:54 +0900</pubDate>
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         <title>新刊二冊目入稿しました</title>
         <description><![CDATA[入稿終わりました！　フー。脳内予定どおりになんとか進行できてよかったよかった。【追記】<a href="http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/01/53/040030015358.html" target="_blank">とらのあなさんで通販始まりました（事前予約あり）。</a>見本は<a href="http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=696074" target="_blank">pixivにドーンと</a>。
二冊目はヒーロー全員書くのが目標だったんですが、それもクリアできました。オムニバスっぽくポンポン短編で繋いで、最後はとうとうルナティックさんまで書いてしまった。締め切り前に本文仕上がったのでほづみさんに見せたら、挿絵まで入れてくれましたよワーイ！　俺得。
でもって、続きでもう一本書けそうな気がしてきたので、できたら追加で読めるようにしたいなーと考え中です。無配かpixivか、その辺で。ちょっと仕事が押してきたので時間と相談ですが。
にしても、久しぶりにガーガー同人誌書けて楽しかったです。大好きなふたりに絵もつけてもらえたし、現物を手に取るのがすごく楽しみ！
このペースでしばらく活動したいなあ。虎兎まだ恋愛未満なので引き続きガッツリ書いて、一冊で１００ページ越えたい……とか書きながら思ったけど、そういえばジャンル参入の一冊目からこんなにページ数書いたの初めてかもアハハハハ……なぜもっと早くから書き始めなかったわたしよ……。

あっ、そうだ。いまさらBlu-rayの特典ドラマCDガーッと一気に聞いて、キャラ間の会話が相当よかった！　会話書くのがいっそう捗りました。あれくらいの長さのドラマ、小気味よくていいなあ。ルナティックのがおもしろくて吹いてしまった……（笑）犯人はウサ。]]></description>
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         <pubDate>Sun, 18 Dec 2011 13:15:51 +0900</pubDate>
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         <title>再録祭り。</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.pixiv.net/member.php?id=3435092" target="_blank">pixiv</a>弄っていたら、せっかくだからなにか小説載せたいなーってなりまして、手許にあるペルソナ４を試しにアップしてみました。読み切りの方が読みやすいかと思って主花上げたら、ガーッと閲覧数上がってビックリ。現在進行形でアニメやってる王道カップリングはすごいなあ。読んでもらえてるのが目に見えてわかると嬉しいですね。なるほどpixivが流行るわけです。
てなわけで、「恋のからまわり」と「恋のいたちごっこ」をこっちにも完全再録しました。違いは、pixiv版は主人公の名前が鳴上くん、こちらが大塚くんなところです。（お読みいただく方には鳴上くんの方が馴染みやすいかなと思うのですけど、なんだか別人のように見えてそわそわ……）お楽しみいただければなによりです。

にしても、これから活動すんのタイバニなのに、まだ載せるもののストックがなくてサンプル止まりという。なんか閲覧数とか悔しくなってきました（苦笑）ま、ボチボチやります。ていうか、冬のタイバニ二冊目絶賛ボチボチやってます。表紙はもう入稿したよー。チラ見せ↓

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]]></description>
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         <pubDate>Mon, 12 Dec 2011 22:56:41 +0900</pubDate>
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         <title>恋のからまわり３</title>
         <description>　反射的に、俺は家に背を向けて走り出していた。
　行き先なんて考えてもない。ただ、その場から遠ざかりたいという一心だった。真っ白な頭で足をひたすら交互に動かして地面を蹴る。もう身体はクタクタのはずがあまり苦しくない。けれど、自分の喉からはひっきりなしに木枯らしみたいな音がする。
　さっきからずっと、頭と身体の速度がちぐはぐだ。
「花村！」
　後ろから、声が追いすがってきた。そのとき。
「わ……っ」
　右足がおかしな角度で着地したのがわかった。身体を反らそうとしたが間に合わない。かろうじて手を出して舗装路の脇の草地へ倒れ込み、身体を丸めてゆるい坂を全身で転げた。あちこちから衝撃があって息が詰まる。衝撃が通り越すと、それはダイレクトな痛みになった。
　ざっと斜面を降りてくる気配がした。とっさに起き上がろうとしたけれど、朦朧としていて上も下もわからない。身体も重くて言うことを利かない。
「大丈夫か」
　声が聞こえた。誰の声だかはすぐにわかった。でも返事ができない。できるようなら最初から逃げたりしていない。なおもその気配から遠ざかろうともがいて、右足首に激痛が走った。
「痛……っ」
　背中をきつく丸めて歯を食いしばった。庇うように足へ触れると、じんじんと熱を持った感触がした。
「くじいた？」
　痛みに固く閉じていた目蓋をそおっと開くと、目の前にしゃがみこむ影が見えた。
「さわるよ」
　声は静かに、けれども有無を言わさない強さで宣言し、俺の右足に触れてくる。俺の曲げた膝をゆっくりと伸ばして草原にそっと下ろすと、手早く上履き──そこで初めてスニーカーに履きかえるのを忘れたことに今さら気づいた──と靴下を脱がされ、検分するように指が丁寧に足の甲辺りを滑った。
「……っつ！」
「指は動く？」
　小さく頷いた。
「捻挫だろうけど腫れそうだな。早く冷やした方がいい」
　淡々と言って、脱いだ靴下を押し込んで俺の上履きを押し付けた。
「これ、自分で持って。おぶってやるから」
「な、なんで、……大塚」
　ようやく、声が出た。我ながらか細くて掠れて、いまにも死んでしまいそうな声だった。
　暗がりでちらりと、大塚と目が合う。
「なんで……」
　もう、同じことしか言えなくなっている。
「病院閉まってる時間だし、花村の家までだから。ほら」
　くるりと背中を向けて、大塚がしゃがみこんだ。そのまま動かない。
　無言の背中は少し怖くて、結局俺はおずおずと大塚の肩に手をかけ、ぎこちない仕草で体重を預けた。すぐに腕が伸びてきて俺の膝裏を浚い、視界がぐんと高くなる。慌てて大塚の首にしがみついた。
　しなやかで大きな背中にまるで重ねたスプーンみたいにくっついて、たったそれだけのことなのに体温がぐんと上がったのがわかった。息が詰まって、動悸がどんどんと早くなる。自分がおかしいことを気取られてしまいそうで怖くて、大塚から一刻も早く離れたい。けれど、大塚の足取りはじれったいほどゆっくりだった。
　たぶん、俺の足を気遣ってくれている。振動で痛まないように。
「……ごめん」
　蚊のなくような声が出た。距離が近いから聞こえてはいるだろう。けれど、返事はなかった。
（怒ってる）
　それは、そうだろう。一日に二度も顔を見て逃げ出されたら、誰だっていい気分はしない。だけど、大塚はなにも言わない。情けなくて眦に少しだけ水分が溜まった。背中に背負われていてよかった、とほんの少しだけ思う。情けないけれど、もっと情けないところを見られないで済んだ。
「結構待ったよ」
　大塚がぽつんと呟いてから手許を見た。腕時計の文字盤がほんのりと蒼白く光っている。
「どっかで倒れてるんじゃないかと思って心配した。寄り道でもした？」
「し、してない。てか、おま……さっき、学校で……俺のが先に」
「うん、学校出たのは俺の方があとだけど」
　大塚がしゃくった方を見ると、俺の家を囲うブロック塀に自転車が一台立てかけてあった。
「チャリ……？」
「そう。学校からだと坂が下りだし。最近、近道も覚えたし。家はこの間、おまえが教えてくれただろ。高台で、屋根の形」
「け、けど、おまえ……チャリって持ってたっけ？」
「学校で借りた。誰のだか知らないけど」
「……は？」
「明日早く行って返しとく。そんなことより、花村」
　静かに名前を呼ばれて、思わずぎくりと肩が震えた。
「俺になんか言いたいことない？」
（まただ）
　いつもと違う音がして、とたん心臓から指先まで、身体の全てがちりちりする。
「花村」
　大塚が強く俺のことを呼ぶ。けれど俺の足はいま、大塚に抱え込まれていて逃げられない。
「……別に」
　必死でそれだけ絞り出すと、また、沈黙が俺たちの間に居座った。
　本当に泣きたくなってきて、俺は喉元にこみ上げてくるものを必死で呑み込んだ。
（じゃあ、どう言うのが正解なんだよ）
　相棒、なんて安い言葉にしがみついて、自分の足場を守るだけで精一杯の自分。
　俺の情けないところを全部知っていて、それでもなお待っていてくれて、側にいてくれる大塚。
　自分が不格好すぎて、大塚が優しすぎて、間にある落差に絶望的な気分になる。ここまでしてもらっているくせにまだもの足りないと思う自分と、手加減する余裕のある大塚の温度差にも。
　だけど本当は、誰よりも大塚に好かれたい。いつだって自分が大塚の一番でいたい。
（だから、……言えねえって、そんなの）
　家の前まで来ると大塚が「鍵ある？」と短く聞いた。慌てて背負われた体勢のまま鞄を探っていると、大塚がしゃがみこんで背を低くしてくれたから、彼の肩越しに腕を伸ばして自分で鍵を回した。おじゃまします、と丁寧に言って大塚は俺をおぶったまま家に上がり込む。自分の家なのに視線の高さが違って、なんだか知らない場所へ来たみたいな気がした。
「部屋、上？」
「……ああ、うん」
　お互い最低限の言葉だけでやりとりしながらようやく自室のベッドに下ろされ、馴染んだ高さになると心底ほっとしてため息がこぼれる。離れた温度を一瞬だけ寂しく思ったけれど、小さくかぶりを振って忘れることにした。メッセンジャーバッグを肩から下ろして床へ放り、履いたままだったもう片方の上履きを脱いだ。
「台所かりるな」
　短く言って大塚が部屋から出ていき、すぐにビニール袋を手にして戻って来た。それから学生鞄とスポーツバッグ。そういえばさっきは手に持っていなかった。
「これ、ちょっと持ってて」
　手渡されたビニール袋の中でごろりと固い音がした。冷たい。中には氷が入っていた。大塚は枕を引き寄せて俺の足の下へ敷き込み、高くしておいて、足の甲にビニール袋をそっと乗せた。痛いくらい冷たかったけれど、熱を持った肌には気持ちがよかった。
「もう少し冷やしてテーピングするから。今晩様子見て、辛かったら明日医者に行くといいよ」
　大塚が自分のスポーツバッグを探ってタオル、肌色のテーピングとガーゼ、チューブのようなものを取り出した。ずいぶん準備がいいなと思ってから、ああバスケ部か、と思い当たってまた唐突に胸が軋んだ。
　本当に今日はどうかしている。
（マジでちいせえ男……俺）
　里中はいつも、大した意図もなく本当のことを言い過ぎる。
「具合は？　身体が辛いとかは」
　俺の足許に氷入りのビニール袋をタオルで巻きながら、大塚が聞いた。
「別に、平気」
「ならいいけど。それより俺、もう少し居座ってて大丈夫？」
「い……けど。どうせ親、まだとうぶん帰ってこねーし……」
　大塚が、急に振り返って大きくまばたいた。驚いた顔をしていた。
「え、……な、なんかヘンなこと言ったか……？」
「……いや、別に。いい」
　目を逸らす大塚が少しだけ慌てて見えた。
（なんだ？）
　意味がわからなくて首を傾げたが、しかし、大塚の視線が戻って来ない。じっと見つめられれば見つめられたで困るのに、逸らされれば閉め出されたみたいで苦しい。なにか言わなければ、という気がして、必死に話題を探した。
「そ、それよか、おまえン家のほーが門限とかあるんじゃねーの？　菜々子ちゃんとか……」
「菜々ちゃんにはさっき、遅くなるって電話しておいた。おまえの方がよっぽど心配だったから」
　ハッキリと言われた。
「……その、悪い」
「俺が勝手にしてるんだから、花村は謝らなくていい」
　大塚の言い方がいつになくきつくて、言葉では許されているはずなのに怖じけた。また逃げ出したくなっている。行くアテもなくて、満足に動けもしないのに。
「花村、こっち見て。ちゃんと俺のこと」
　大塚がまた、強い口調で言った。けれども今度は、熱のこもった頑是ない言い振りだった。
「見て」
　念を押すような声はらしくもない切実さを孕んでいる気がして、拒絶しきれなくて顔を上げた。
「俺のこと無視するなよ、……頼むから」
　俺は正面から大塚の顔を見た。
　薄くてなめらかなくちびるが微かな動きで、俺の名前をもう一度呼んだ。
「花村」
　整った細面、ほんの少しだけ上向きの眦、形のいい鼻筋とそれから、深い色の目。
　今日一日中、同じ教室にいたのに。ついさっき鉢合わせをしたばかりなのに──なんだかすごく、懐かしかった。
（俺……しばらくこいつのこと、まともに見てなかった……かも）
　まるで十年ぶりの再開みたいに、胸がいっぱいになる。視線が結び合っただけで膨大な質量の熱がどっと兆した。堪えきれずに胸の器からこぼれたひと垂らしがいくつも円の波紋を描き、四方へ広がって膨らんで、余剰の水がうっかり目から溢れそうになる。悲しくもないのにまた鼻先がつんとしてきて、気づかれないように息をするので手一杯になった。
「もう一回聞いてもいい？」
　小さく呟いて、大塚が俺の右手をそっと両手で包み込むようにして握った。
　驚いた。
「──本気にした？」
　触れた大塚の手が、とても、冷たかったから。
「大塚……？」
　俺の姿が映り込みそうなくらい間近から、大塚の目が静かに見ている。表情はいつもと全然変わらない。けれど指は、いつまで経っても温かくならない。これは氷のせいじゃない。だって、その下にある俺の指は腫れぼったいほど熱いのに。
（どうしてだよ）
　冷たい指先は決して乱暴でも強引でもなく、柔らかに俺の指と手のひらを包んでくれている。力を込めればさっさと振りほどける程度の強さだ。いまこのタイミングで「そんなわけない」と言って突き放せば、悶々とした日々に一応の決着をつけることができるはず。
　たぶん、これは、大塚の優しさだ。嫌なら俺がすぐ振りほどけるように、振りほどいたあとも傷つかずに済むように、こんなのは本気じゃないよと言う準備をしている。
　なのに指は、こんなに冷たい。
（なんでもないみてーな顔して）
　いきなりどっと悲しくなって、胸が鈍い痛みに甘く歪む。
　必要以上に気遣われ、守られている。
（そんなことがしてほしいんじゃない）
　ちっとも大塚と同じ高さにいないことが悔しい。けれど悔しさと同じくらい、俺はいま、悦んでいる。俺の手の内にあるきれいな指へ染みいる冷たさ、纏わり付くしんとした切なさを。いつもなら簡単に取り繕える程度のことで余裕をなくして、いま固唾を呑んで俺を見ている大塚の仕草を、心の底から悦んでいる。
　怖いのも逃げ出したいのも、大塚のせいじゃない。大塚はいつだって優しいことしかしない。勝手に見たあの夢だって。
（いやじゃ、なかった）
　怖いのは、ずっと怖くて逃げ出したかったのは、欲の塊みたいな自分自身だ。胸の中にある、俺の影。
　俺が逃げるから、大塚はもっと優しくなる。ずるいのは、誘うみたいに逃げた俺の方だ。
　もっとこっちを向いてほしくて。
「よせよ……もうやめろよ、そういうの」
　譫言みたいに言って、俺は、大塚の両手を絡んだまま引き寄せ、指と指の隙間にくちびるを押し当てた──今度こそ、俺の方から。
「花村……？」
　大塚の冷たさが沁みて、俺のくちびるから熱を奪っていく。俺の熱が大塚の冷たさを奪って、どんどん混ざってぬるくなる。
　微かにゆるいため息が聞こえて、大塚の身体が傾いだ。頭の位置が俺より低く、耳許の辺りまで来て止まる。
「顔、あげて」

　温度と湿度の高い音が耳許から吹き込まれて、勝手に背骨が震えた。ようよう視線だけを持ち上げると、大塚の右手が優しく俺の指からほどかれた。すると今度は頬に、まるで柔らかい果物を扱うみたいな手つきでそっと触れてくる。
　なにをするつもりかわかったから、意を決してぎゅっと目を瞑った。
　涼やかな大塚の目許が、ほん少しだけ和らいだのが見えた。そのあと暗い目蓋の裏側で少しだけ苦笑する気配のあと──眉間に冷たいものが触れた。
　やわらかな、くちびるが。
　そっと押し付けて、すぐに離れる。次は眉間に。それから頬に。耳を撫でて首筋を伝って、最後に顎の裏側へ。
　くちびるに導かれるまま、俯き加減だった俺は少しずつあおのいた。大塚がくれるものをひとつ残らず拾いたくて、皮膚全部の神経をそばだて、息を吐くのも忘れた。
「…………っん」
　そっと重なってくる感触に喉から鈍い声が漏れた。自分の声に驚いて目を開けた。
　大塚が、俺を見ていた。
　俺も、大塚の目を見た。
　視線が先に揺れたのは大塚の方だった。
　視線の先には、俺のくちびるがあって──だから俺はもう一度、目を閉じた。




「……っふ、ぅ」
　キスの合間に短く吐き出した自分の吐息は、あからさまに甘く濡れていた。
「ん、……っん！」
　歯を食いしばっていると、くちびるの隙間をなぞるように舐められて、たったそれだけのことで指の先まで痺れた。ただ軽く皮膚を合わせているだけなのに、触れているのはほんの少しなのに、どこもかしこも熱い。まるで身体の芯が溶けたみたいな、ほかのどんな感覚とも似ていない未知の刺激に頭がくらくらする。
「────！」
　突然、大塚の手が下からシャツをかきわけて滑り混んできた。形のいい手のひらが汗ばんだ胸を這って乳首を押しつぶすと、恐ろしいほど甘い疼きが身体の真ん中を貫いた。
「ち……ちょっと、待っ……大塚っ！」
　あんまりビックリして思わず叫んだ。
（む、胸なんて）
　気持ちいいと思う自分に愕然とした。
「なに」
　大塚は不思議そうに首を傾げた。
「なにって……おま……なんで、こんなこと……すんだよ」
「なんでって」
　まばたいて少し考えるふうにして、
「したいから」
　至極当然のことを言うみたいに真顔で呟かれて、しばらく絶句した。
「こっ、答えになってねーんだよ！」
「嫌？」
「おっ……俺が先に聞いてんだよっ、返事になってねーつってんの！」
　話をしている間になるべく落ち着こうと、俺は内心必死に息を整えつつ大塚を睨みつけた。だが、彼は怯んだ様子もなくほんの少し眉を顰めた。
「うーん、あんまり言いたくないな」
「な、なんだよそれは!?」
「だっておまえ、絶対俺の言うこと信じないから」
　さらりと言って、大塚が俺の肩をベッドへ押し込んだ。
「な、ちょっ……待っ、……ん！」
　今度は上から食らいつくみたいに強くキスされた。容赦ない舌が滑り混んできて難なく俺の舌をさらう。思うさま嬲ったあと軽く舌先を噛まれ、上顎をくすぐられると、淫らな感触にぞくぞくと表皮が粟立った。堰き止められた声が行き場をなくし、喉元にいくつもわだかまる。
「う、ぅん……んっ！」
「結構待ったつもり」
　そっと離れた大塚が、お互いのくちびるが微かに触れる位置から囁いた。
「けどもう、いっそ俺が悪者になろうと思って」
「んだよ……それ、意味わかんねえ」
「好きだよ。だから花村としたい」
　真っ正面から真顔で、言われた。少なくとも、冗談を言う顔つきではなかった。
「本当は林間学校のときも、半分くらい本気だった。天城と里中が来なかったらキスくらいはしてた」
　あっけらかんとした口調で一気に言われて、俺はゆっくり三度ほど、まばたいた。
　すると、大塚がわざとらしいため息を吐いた。
「ほら、信じてない」
「や、……ていうか」
　信じる、信じない以前の問題だ。本当に意味がよくわからない。
「……だ、だって、そんなの……だから、なんでだ」
「好きな理由、全部言った方がいい？　花村が落ち着くんならいくらでも言うけど」
「は……？」
　大塚がにっと笑った。
「花村はひとがいいんだ。いつだってひとを疑うより先に自分を疑うから、よぶんに辛くなる。わかってるのに、何度も同じことをして、そのたびに自分と向き合って葛藤して。そういうところが俺は好きだな」
「ほっ……褒めてねえだろそれ」
「あ、やっぱり信じてない」
「つうか、全然褒めてるっぽく聞こえねえんだよっ！」
　大塚が眉を顰めた。
「んー難しいな。じゃあ顔とか褒めたらいい？　俺、花村は鼻筋がきれいだと思う」
　いきなり、ちゅ、と音を立てて鼻の天辺にキスされた。かっと頭に血が上って、耳の先まで熱くなったのが自分でもわかった。
「バ……おっ、男同士で……ねーだろそれはっ！」
「あるよ。男とか女とか関係なく、造作がきれいなのは見てて気持ちいいし、いくら整った顔してても、卑しいやつはそういう顔になる。結構重要だと思う」
「それは……い、一般論的には、わかるっちゃーわかる、けどさ……」
「けど？」
「……おまえに言われたくない」
「なんで」
「なんでって」
　つるりと「それを言うならおまえの方がよほどきれいな顔だろう」と言いかけて、慌てて口を噤んだ。すると、いつも精緻で冷たい印象すらある顔が、信じられないくらい華やかな顔で笑んで屈み込んできて、耳許でささめいた。
「あと、花村は目がいいよ」笑い含んだ甘い声が容赦なく注がれた。「口で言わない分は目がしゃべってくれて助かる」
　その瞬間、ハッキリとわかった。
（こいつ……いままで全部、わざと）
　俺の耳がおかしいんじゃない。俺がうろたえるとわかっていて、全部お見通しで、わざとこういうしゃべり方をしていたとしか思えない。
「おまえ、やっぱずりぃ……」
「うん。狡い手使ってもいいことにした」
　そう言ってのしかかって、深くくちづけられた。
「ふ……ぅ、ん、んっ」
　容赦なく入り込んでくる舌を絡め取られて、為す術もなく熱が上がる。
「おお、つか……やめ」
　絞り出した声はまるですすり泣きみたいだった。情けなさに歯噛みしながら必死に首をねじって喘ぐと、今度は耳たぶを銜えられた。
「──あ」
　びくんと身体がすくみ上がる。おまけに、再びそろりと胸へ指が忍び込んできて両方の粒をぎゅっと擦られた。悲鳴を上げそうになって、慌てて両手で口許を押さえた。
（信じ、らんね……っ）
　甘噛みしたところを今度は舐められ、耳許からはくちゅくちゅとひっきりなしに湿った音が聞こえてくる。それだけでもどうかなりそうなのに、同時に両胸をこねたり潰したりされると声を殺すのは不可能だった。
「ん……、う、……ぅんっ」
　必死で首を左右に振ったけれど、大塚は気にもとめず、いっそう丁寧な手つきで胸を嬲った。小さな粒は、これ以上ないほど張り詰めて固くなっている。優しく撫でては抓るようにされ、熱を伴うつきんとした痛みに震えた。
　それが、身もだえするほど気持ちいい。
　声を抑える手のひらへ知らず知らずのうちに歯がきつく食い込んで、痣になりそうだった。
「そんな死にそうな顔するなよ」
　大塚がぽつりと呟いた。おまえが悪いんだろう、と怒鳴りたいけれど、声が出ない。息をするのでやっとだ。
「こわい？」
　当たり前だ。怖いに決まってる。男同士でこんなことをして、死ぬほど気持ちがいいなんて、どうかしてる。
　できるだけ恨みがましく見えるように上目遣いで睨みつけると、大塚がちょっと困ったように笑って、俺の上から退いた。
「じゃあ、ちょっと休憩しようか」
　覆い被さる重さが消えて内心ほっとしつつ、休憩ってなんだよ、と言い刺そうとしたが、
「花村、ズボン脱いで」
「──なんでだよ!?　意味わかんねーよ!!」
「痛っ！」
　思わず、脊髄反射で大塚に頭突きした。
「いっ……て、いまちょっと、目から火花散った……」
「おっ、おっ……おまえが変なこと言うからだろうが、アホ!!」
「俺は別にヘンじゃない」
「自分で言うなっ変態！」
「足、もう氷とけてる」
「は……？」
　ぐしゃり、と力の抜けたビニールを大塚が目の前にぶら下げた。
「足首テーピングするから制服脱いで。裾をめくるだけだとやりにくい。……なんなら手伝うけどどうする？　俺は変態らしいからなにするかわかんないけど」
　大塚が、意地の悪い顔で笑った。
「……じ、自分でする……っ」
「そう？」
　くすりと笑われて、頭に来て、俺は制服のズボンを勢いよく蹴り脱いだ。開き直ってベッドに座り直すと、足許へ跪くように大塚がしゃがみ込み、俺の足にそっと触れた。
「やっぱりちょっと腫れたな。熱が出ないといいんだけど」
　独りごちながら大塚はチューブ入りの軟膏を指に取って患部へすり込み、その上からガーゼを当て、器用にテーピングしていく。きれいで長い指がそっと肌に触れてくると少しくすぐったくて、手当てされているだけなのに妙な感じがした。
「な、……慣れてんな」
　妙な気分を紛らわせたくて無理に口を開いた。
「まあね。そこそこ昔からバスケやってるし、どうしても怪我はつきものだから。それに八十神、マネージャーがいないから慣れた」
「じゃあ、おまえがやってんの？　こういうこと」
「意外？」
「や……、んなことねーけど」
「けど？　なに」
　下から見上げられて言葉に詰まった。黙っていると、大塚は俺から視線を外さないまま続けた。
「無茶してよく転ぶんだ、康が」
「…………へえ」
　少し、返事をするタイミングが遅れた。
「自分でやろうとするんだけど、これがまた下手でさ。全然固定できてなくて」
　大塚はテーピング作業の手を止めて、じっと俺を見ている。なんとなく観察されているのがわかって苛々した。
「だから……なんだよ。俺には関係ねーだろ」
「ないよ」
　大塚があっさり頷いた。
「わかってるなら疑うなよ。花村はなんて言ったら俺の言うことを信じてくれるんだ？」
「え……」
「いま俺が百回好きって言っても、百回キスしてもダメなのはわかる。けど、俺はそんなことで諦めたりするほどしおらしくない。土下座したらいい？　それともいま康をここに連れてくる？　俺は見られても全然気にしない」
　一瞬どきりとしたのを、たぶん、見透かされた。大塚が、少し苦笑した。
「嘘だよ。そんなことすると二人とも泣きそうだから、しない」
「な……かねえよ」
「泣くよ。俺が泣かせるから」
　そう言ってテープの端を留めると、急に大塚が立ちあがってベッドに片膝で乗り上げてきた。
「────っ」
　いきなりすぎて、避けられなかった。
　下着の上から、握りこまれた。あまりの衝撃に息が止まった。
「こんな、ぐしょぐしょになってる。触ってもないのに。キスと胸だけで？」
「ば……っか！　やめ……っ」
「どうして」
「いいから……手、どけろ、あ、っ……あ！」
　急に擦るようにされて声が転げた。腰を浮かせて逃げようとしたけれど、根元をきつく押さえ込まれて、本当に少しも動けない。下手に身を捩りでもしたらそれこそ爆発してしまいそうで、前は熱いのに怖くて、背筋が凍った。
「目、瞑っててもいいよ」
「やめろ……って、言って、ぅ、んっ……」
「萎えるようならさすがにやめようかと思ってたけど、気持ちよさそうだし、たぶん大丈夫」
「なに、言って……も、ホントに……やめろ……って！」
　項垂れて、大塚の肩に額を押し付けた。辛い。鳩尾の下辺りに強烈な快感が膨れあがって、前が痛いほど張り詰めた。
「──っあ！」
　布地越しに窪みをこじられて、一瞬の痛みと熱で身体が勝手に跳ね上がった。その隙にあっという間に下着をはぎ取られ、ぬめりを帯びた前がぶるりと震えながら飛び出した。
「バカやろ！」
　危うく痛めた足で大塚を蹴りつけそうになった。
　でも、俺より大塚の方が早かった。
　あらわになった俺のものを、大塚が咥え込んだ。
「あ……！」
　返事の代わりに、じゅる、とすすり上げる音がして、あまりの羞恥に脳みそが焼けて死にそうになる。
「う、嘘……、……や、め、……っ！」
　ぬるい温度の口腔がぬるぬるとそそり立つ屹立を行き来し、ときおり歯が掠め、もう身体を起こしておけなかった。屈み込む大塚の髪の毛を握りしめ、俺はきつく背を丸めた。
「は……、あ、……っあ、あぁ」
　ゆるく扱かれているだけなのに、あっけなく腰がとろけていく。濡れた音がとめどなく耳朶を打ち、嫌でも自分がどろどろに濡れていることを思い知らされる。
「も……やだ、マジやだ……、い……っ」
「いい？　イく？　それとも痛い？」
　ふいと顔を上げて、大塚が聞いてくる。歯を食いしばって首を振った。そんなの答えられない。
「きつそう。……出していいよ」
　とんでもないことを言って、大塚が再び前を咥えた。
「や──あ、っあ、あ……も、ダメ……っ」
　口をすぼませて強く吸いながら、括れを擦り上げられた。
「放せ、って……や、あ、ァ……！」
　舌で先端を抉られて、大塚の口腔へ叩き付けるように射精した。悲鳴じみた声と一緒に、快感がじゅくじゅくと追いかけてきて身体が震える。出しても出しても足りないような錯覚に陥って、あまりの苦しさに涙がこぼれた。
「……う、っく」
　しゃくり上げるような呼気が止まらない。涙も。たぶん、いまのショックで涙腺が壊れた。ぼろぼろとひっきりなしに水が出る。
（ありえね……）
　舌でされたのも初めてで、おまけに口の中に出した。信じられない。
（ヤバい……死ぬほど気持ちよかった）
　頭の天辺からつま先までびりびり痺れて、震えが止まない。
「泣くほど気持ちよかった？」
　ややあってから、しれっとした声が下から聞こえた。
「おおつか……っ」
　睨み据え、一発殴ってやろうと腕を途中まで振り上げたときだった。
　間髪入れずにまた、下肢で途方もなく変な感触がした。
「────っ！」
　ありえない場所にぬるりとした異物感を感じて、思わず本気で「死ね」と叫びそうになった。
「なに、……してんだよっ……！」
「ここ、後ろ慣らしてる」
　く、と後ろに指が入ってきて中で曲がった。
「う」
　ぞわぞわ毛が逆立つような、異様な感触がする。
「慣らせば平気。たぶん」
「や……も、おま、マジありえね……やめろ……っつうの！」
「イった後の余韻でこれくらい平気っぽい気がしない？」
「するかバカ……っ！　きもちわりぃんだよ……！」
「わかった。ちょっと待って。すぐいいとこ探すから」
　すごく真面目な顔で言われた。制止も聞かずに、大塚の指は不穏に蠢く。
「なに考えてんだよバカっ！　いーから抜けって!!　指！　ンなとこ突っ込むな……っ！」
「そっちだけ気持ちよくなって終わりって酷くないか？」
「知、るかっ、おまえが勝手にやっ……、──ア！」
　やけに狭くて柔らかい部分へ──突き当たった。
（なんだいまの）
　大塚の指がほんの少し掠めただけなのに、どっと霧吹きで吹いたような汗が出た。なにが起きたのかわからなくて呆然となる。
「……ここ？」
　内緒話みたいなボリュームで大塚が囁いて、指を、もう一度くねらせた。
「あ、…………！」
　正体不明の熱が鳩尾の辺りに湯を浴びせたみたいに溢れて、背筋がそそけ立った。あった、と大塚がほころぶように言ったのが聞こえた。まるで宝物を見つけたみたいに。
「ここ、わかる？　この辺が前立腺」
「……っ、う、……ぅ」
　腹の下の方にある一点を執拗に擦られ、声を上げるどころか息も絶え絶えに喘いで、大塚の肩へ額を擦りつけた。それ以上の身動きはできなかった。腰は大塚の腕にがっちりと捉えられていて動けない。
「力抜いて。そんなに深いとこじゃないから大丈夫、怖くない」
　違う。内臓を他人に抉られて、大丈夫なわけがない。深いとか浅いとかは関係ない。
「ん、ほら。緩くなってきた」
「あ──」
　いきなり圧迫感が増した。ぬちぬちと指が束になって、少しずつずれたタイミングで中をひっかいては出て行き、また入ってくる。剥き出しの粘膜に別の皮膚が擦れて、なにか感じるよりも先に、身体は勝手にどんどん熱く膨れあがっていく。声も出ず、朦朧とひたすら吐息だけで喘いだ。酸素が足りない。このままだときっと死んでしまう。
「も、や……だ、おおつか……っ」
「大丈夫、また勃ってる」
　囁かれてぎょっとした。涙でぼやけた目を向けると、さっき達したばかりの前がまた勃ち上がり始めていた。
「うそ……っあ、あ！」
　とろりと熱がこぼれたのがわかって、堪えきれずにまた涙が落ちる。
「おお、つか……も、マジダメ……こんな、俺、ぜったいヘン……っ」
「別におかしくない」
　必死に訴えたのに、大塚はなんでもないみたいに言って俺の天辺に小さく口づけた。
「気持ちよくなって、わけわかんなくなったらいいよ」
「やだ……っ」
「それくらいでいい、花村は。頭からっぽにして、少しは俺の言うことも聞いて」
「なにそ……あ、あ、あ！　も……ムリ……はいんない……って、ぅあ」
「これで三本」
「は……ぁ……っ、ア！」
　広げられてみしみしと軋む。たった一本増えただけのはずがひどくきつくて、喉では到底殺しきれない声が溢れた。まばたくたびに睫は水を跳ね上げる。辛い。あのきれいで長い指が自分の中をかき混ぜているかと思うと、本当に死にそうな気分になる。
　束が太くなった分、指が自分の肉に呑み込まれて、出て行くのがありありとわかった。特に出て行く瞬間、引き留めるように自分がぎゅっと収縮するのがわかって、まるで大塚を欲しがっているみたいで、生々しさに思わず呻いた。
「う……ぅん、ん」
「あ、また出た。これ、精液が白いのって、前立腺の成分なんだって」
「っ──あ……」
　どうでもいいことを呟きながら、大塚が、あやすように前にも触れてくる。罵りたかったけれど、強い異物感の底からこみ上げてくる快感に、声が出なかった。指で内と外を擦り上げられて熱がさらに膨れあがる。びくびくと痙攣みたいに下腹が震えて、中にある指を勝手に締め付けて、また呻く。熱の循環が止まらない。
「もう一回イっていいよ」
　ひどいことをされているのに、大塚の手つきはどこも乱暴じゃない。いっそ乱暴にしてくれたら罵れる気がするのに、妙に優しげな声と仕草に、テンパった脳と心臓は易々と騙されてしまう。
「…………っ、うあ」
　全身がぶるりと震えて、自分の胸や腹に精液が飛び散った。制服のシャツがぐしゃぐしゃに濡れて肌に貼り付いた。
「も……ほんとに、やめ」
　荒い息の下から嗄れた声で喘ぐと、ややあって、後ろから指の束がごっそり引き抜かれた。
「……っ」
　労るようにそっと肩を押され、身体が馴染んだベッドへ沈む。少しだけほっとして胸を喘がせながら、涙にぼやけた目で天井を眺めた。
（なんで……こんなことしてんだっけ、俺ら）
　自分の喘鳴を聞きながらぼんやりとしていると、ふいに、ぱり、と乾いた音が混ざった。のろりと首を巡らせて見たけれど、寝転がっているとよく見えない。おまけに、電気ひとつつけていない。部屋は真っ暗だ。
「……大塚？」
　急に視界から消えたせいで、少し不安になった。
「なにしてんだ？」
　ベッドに肘をついて起き上がろうとすると、大塚がすっと立ちあがって優しく俺の肩を押し戻した。
「だらっとしてていいから」
　そう言って口許になにか咥えて、千切った。
「なんだ、それ」
「コンドーム」
　また、意味のわからないことを言われて、絶句する。
「……は？　え？」
「まあ一応。初めてだし、ちゃんと検査受けたことないし」
「ちょ……待てっ、なんの、話……」
「これも塗っておくから」
　手に持っていたのはチューブだった。さっき足に塗った軟膏の。
「さっきもそれほど痛くなかっただろ」
　ああ、そうか。妙にぬるぬるすると思ったら、奥にそんなものを塗っていたのか。全然気づかなかった。
（じゃなくて！）
　なにかもっと真剣に考えなければいけないことがあるはずなのに、頭の中が真っ白だった。そうこうするうちに、大塚がベッドの下から俺の足を持ち上げた。
「──────っ」
　呆然としすぎていて、抵抗している余裕もなかった。
　薄い肉を左右に開かれ、湿布の匂いのする足を肩に担いで、大塚が、組み敷いた俺の身体を畳むように上から突き入れてきた。
「あ、あ、……うそ……っ」
　指の束よりもずっと大きいものがずぶずぶとめり込んでいく。足の指が全部内側に折れ曲がるほど足がこわばって、右の足首がじんと痛む。吐き出す息と一緒に、また目尻に涙が盛り上がってこぼれた。
「痛い？」
　痛くないけど、苦しい。息を吸うのも逃がすのもうまくいかない。汗が噴き出す。大塚の質量分が、俺の身体の外に出て行く。
「も、ダメ……もう入らな……っ」
「あと半分、くらい」
「も、おまえ、やだ……っ、ウソばっか……」
「なにが」
「大丈夫って言っ、……ぅ、あ、アア！」
　まるでどこか一箇所で引っかかっていたかのようにいきなり、ずちゅ、と太いものが肉襞を掻き分けてきて、そのまま容赦なく最奥に突き当たった。
「は……っ、あ……あ」
　怖いほどぎっしり埋め尽くされて、身体が隅々まで痺れる。もう二回も達してひりひりする前がまた疼き出して、その間隔の短さに我ながらぎょっとした。
　もう、早く大塚が達して、満足して終わってくれたらいい。射精する側から次々わき起こる欲望が怖い。
「お、……つかっ」
　なんとかして欲しい一心で呼ぶと、驚くほど舌っ足らずな甘い声になった。
「きつ……」
　少し上ずった声がした。
「あれだけぐちゃぐちゃにしたのに」
　目を細めて大塚が呟き、ぱたぱたと汗が落ちてくる。
　中で──大塚が激しく脈打っている。
（なんだ、これ）
　ビックリした。
　大塚と、ものすごく一塊になっている。
「すきだよ」
　眉根を顰めたまま、大塚が言った。
「ずっと触りたかった」
　震えが、伝わってきた。
「おま……これ、サイテーだろ……」
　似合わない。こんな切羽詰まった余裕のない大塚なんて、らしくない。よく見てみたら服すら脱いでいない、ズボンの前を開けただけの即物的な格好で、セックスの真っ直中に告白をするなんて──ぎりぎりすぎて格好悪すぎる。
　こんなの、いつもの大塚じゃない。
「ガッカリした？」
　なのに、この期に及んでまだ、少し意地悪そうに笑って見せたりして。
「したよ。……この、大嘘つき」
　きっとこんなひどい大塚は、俺しか知らない。脈が、汗が、吐息が落ちてきて、衝撃も圧迫も、めまぐるしく、途方もない質量の愛おしさに変わる。
　ありったけ腕を伸ばして、大塚の背を抱いた。いきおい、最奥に大塚が強く押し付けられて、圧迫感に息が詰まる。どこもかしこも、隙間がないほど大塚でいっぱいになっている。
　小さな息を吐いて、大塚が腰を引いた。
「う……っん」
　出て行く感触に、慌てて力をこめるとぎゅうっと奥がきつくなる。そこへ、また分け入ってくる。ゆるゆるとそれを繰り返し、内側が沁みるほど擦られて熱に眩んだ。
「あ……ぁあ、……う」
「陽介……」
　切なげに囁いて、大塚がすっかりとろけきった俺のそこに強く突き入れる。
「あ──」
　驚くほどすんなり大塚をくわえ込んで、俺は物欲しげにぎゅっと食い絞めた。
　──ようすけ
「いま……おまえ」
「なに、ダメ？」
　慌てて首を振ると、大塚が少し苦笑した。
「陽介のココ、ホント……きつ」
「おまえが……でかいんだ、って……あ、ぁあ、──ん、ぅ」
　深いキスをしながら、大塚がきつく腰を突き入れてくる。
「ヤバ……も、い……」
「いい？」
　答えられずにいると角度を変えて揺すられ、俺は観念してがくがくと頷いた。
「い、……きもちい、から……おおつか」
「和臣って、言ってみて」
　見つめ下ろす瞳は少しうるんでいて、目縁が赤かった。全身で求められているのが本当に、疑いようもないほどハッキリとわかって背骨が食い込むように熱くなる。
　こいつだってひとのことは言えない。目の方が、ずっと正直だ。バカみたいだ。たぶん、うまく言えなかったのも誤魔化そうとしたのもお互い様だったのに。
（俺なんかの、どこがいいんだよ……バカ）
　その答えはやっぱり全然わからないままだけれど、熱っぽい瞳はまるですがるような切実さがあって。無視できない。
　気恥ずかしさを押し殺して、口にした。
「かず……和臣」
　たったそれだけのことで中にいる大塚が、ぐんと大きさを増した。それが可愛くて、愛おしくて、もうなにもかもがどうでもよくなった。
「陽介……」
　シーツが擦れるくらい揺すられて、背中が熱くて焼けてしまいそうになる。
「どうしよ……も、いい……っ、ダメ、やだ、いい……かずおみ……」
　いつしか、声を抑える気はなくなっていた。
　支離滅裂に喘ぎながら快感をもっと貪りたくて、俺は大塚の肩をもっと引き寄せて首筋に歯を立てた。
　──俺の内側で大きく、大塚が震えた。</description>
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         <category>03shuyoh</category>
         <pubDate>Mon, 12 Dec 2011 22:43:25 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>Less is More</title>
         <description>　ことが情事に及ぶ恋愛において「自分は悪くない」なんて言い訳は、少し稚拙だと僕は思う。体を預ける関係性が、どちらか一方の責任だけで成り立つわけがない。たとえ迷いがあったとしても、そこに至るまでにはお互いの意思と細かな判断、多少の決断があるはずだ。
　だいたい「そんなつもりはなかったのに、あのひとが」なんて繰り言、未経験の女性じゃあるまいし。
　だけど、いまは敢えて言いたい。
「ぅ、あ、あ……っ！」
　どうしてこんなことになったんだろう。
　だって僕はこのひとと恋愛なんてした覚えなんてないし、おまけに男同士でセックスなんて、どう考えてもおかしい。いったいなにをどう間違ってこんなことになったのか。
「うおっ！　……オマエなあ！　イクならイクって言えよ。あーあ、ったく、髪の毛についちまっただろうが。うわ、ベッタベタ」
　しかも、相手はこんなデリカシーのないオジサンだなんて。冗談じゃない。
「しっかしすっげえ出たなぁ……やっぱ若いってのは違うなぁ。なあ、いっつもこんぐらい出んの？　バニー」
　荒い息をつきながら薄く目を開けると、飛び散った白濁を指ですくいとって舐めている髭面が見えて、思わず本気で「死ね」と言いそうになった。
「いや、……まあその、そんな顔すんなって。いいじゃねえか、自分でする手間がはぶけたっつーことで。気持ちよかったんならそれで……おわっ！」
「いちいちムカツクんですよ、そういう言い方！」
　せっかく堪えていたのに、あまりにひどい言い草で頭にきたから、起き上がって殴ってやった。
「いってて……なんだよ、よかったなら別に怒らなくてもい──」
「悪趣味なんですよ、あなた！　ひとの反応をそうやっていちいち面白がって」
「だってよ、自分以外のチンコ触るなんて普通はやらねえだろ？　そりゃ珍しいに決まってるし、やっちまったもんはしょうがねえし。だいたい気色悪くて萎えちまったならともかく、元気なのはい……いい!?」
　本当に、心底頭に来たから、勃ったまま達していないペニスを思いっきり握ってやった。
「だっ、おい！　バニーやめろって、俺のはいいって！」
「ひとには散々なことをしておいて、自分は嫌がるんですか。それとも、口先で嫌がってるけど本当はしてほしいんですか」
「待て待て待て、ア、ホ、か！　だいたい嫌よ嫌よも好きのうちとか、オマエ、俺は女じゃないんだから」
「わかってますよ、それくらい！」
　頭の隅ではどれだけバカバカしいかわかっていたけれど腹の虫が治まらなくて、握ったペニスを思い切りしごいてやった。
「待て待て待て！　オイ！　ちょ、待……うおっ！」
　これ以上返事をするのが嫌で、いまなら勢いでできそうだと思ったから──半ばムキになっていたのは認める──思い切って口で咥えた。
「おま……いくら怒ったからって、そこまでするこた、ねえだろうがよ……っ」
　たまに息が途切れると驚くほど胸がすっとしたから、続けた。
「……ン、ふ」
　中途半端な堅さなのにそれでも口にするには大きすぎて、すぐ顎がだるくなった。鼻先できつい雄の匂いがして息をするのも苦しいし、怒張した男性器なんてグロテスクなばかりで、なにひとつ楽しくない。でも、止めたらすかさず「ホラ見ろ、やっぱ無理だろ？」と笑われるのが目に見えていたから、続けた。
（クソッ、早く終われ……！）
　極力余計な情報を極力遮りたかったから、目を強く瞑り、ひたすら舐め回すことに没頭した。括れをくちびるで引っかけ、裏側の筋へ舌を這わせ──手探りながらも女性の体を探検するよりは遠慮がいらないし、見知っているぶん楽かもしれないと無理やり思うことにした。別に相手は泣くわけでも、壊れるでもない。目を閉じたら、少しだけ現実が遠ざかった気がしたのもよかった。
「おい……バニー、も、いーって、……ンああああ、クソっ！」
　自分ではままならない熱に焦れたのか、背後で忌々しげに吐き捨てる声がした。悪態をつくたびにいちいち口の中のものが正直に震えるから、思わず笑いそうになる。相手の反応を伺う余裕さえ出てきた自分の順応の良さも、少しだけ可笑しい。
「んん──ン！　あ、なにす……っ」
　いきなり後ろの穴にぴりっと、ひんやりした痛みが走った。
　ぎょっとして振り向こうとしたけれど、いつの間にかがっちりと足腰が押さえられてできない。
「いったい、なにをしてるんですか！」
「なにって……その、俺も手と口が空いてるし、どうせならちょっとナニをどうにかしてだな」
「やめてください！　余計なことをせずに、おとなしく……っあ、痛っ」
「悪ィ悪ィ。……やっぱそう簡単にゃいかねえかあ」
「バ、カ野郎……ッ」
　余計なことを止めさせたくて、もう一度目の前にそそり立つペニスを深くほおばった。けれど、すっかり堅くて大きいのに、終わる気配がない。しかも、尻でひっきりなしにおかしな感触がするから全然集中できない。変なところを浅くかき混ぜられて、知らない感触にひどい目眩がし始め、だんだんと脂汗が滲んでくる。
「う、は、あ……んっ」
「……あんま、気持ちよさそうじゃねえな」
「当たり前、……っ」
「よくわかんねえなあ。こう？」
　太い指が中の粘膜をあちこち押したり、撫でたりして探っているのがわかる。悪趣味すぎる。
「いいからそれ、やめてください……っ！」
「だってよお、おまえがそんながんばってンだし」
「余計なことをしないで結構です！　──っく、あ、だから……っ、ひとの話を……！」
　すると手が伸びてきて、すっかり萎えていたモノをやわやわと擦られた。
「聞いてる聞いてる、わかってるって。やっぱ前の方が気持ちいいだろ？」
「だから……っ、どうしてそうなるんです……!?」
　やめろと言ってるのに！　と怒鳴ろうとしたら、タイミングを計ったみたいに亀頭の天辺をぎゅっと抉るようにされた。声を出したら全部変な喘ぎになりそうで怖くて、咄嗟に唇を噛んでやり過ごす。
「お、よしよし。デカくなって来たぞ。だよなあ、やっぱりこっちの方が気持ちいいよなあ」
　うるさい、うるさい。
「けど、前がイイと、ちったあこっちもイイかんじになったりしてこない？　ん、バニー？　オーイ、聞いてるか？」
「うるさい……っ」
　思わず譫言みたいな声が出た。
　だって、このひとがあんまりしつこいから。そんなこと、聞かれたって簡単に答えられるわけがないのに。
「あ！　おま、性格悪ィなあ……くっそ、この……そんな、がんばってエロいことしなくていーっつってんのに……」
「ン、ん……ふぅ」
　わざと大きな音を立ててすすった。
　口の中──舌先が、あつい。脈打ってまた大きくなる。さっきよりずっと堅くなった気がした。
「バニー、聞こえてんだろ、……オイ」
　うわずって急いた声に、妙な熱で浮かされているのが自分だけじゃないとわかって、少しだけホッとする。
　うっすらと筋が浮き立っていると気づいたから、舌を尖らせて、注意深く何度もなぞった。ときおり下腹がそげて、震える。その僅かな反応だけをよすがにして、夢中になったつもりで、もう一度深く呑み込んだ。自分がイメージする姿に擬態するのは案外得意だ。それに、うまく息がつげないせいか頭がぼうっとしてきて、細かいことが考えられなくなってちょうどいい。
「コラッ、……バニー、も、よせ」
　しばらくして、虎徹の掠れた声がした。妙に熱っぽい、本気で懇願する音色だったから、驚いてつい震えた。それから、我にかえった。
（……僕は、なにを）
　また、いつの間にか睫が濡れている。
「っくしょ……ンじゃ、ここはどうだ！」
「うぁっ、あっ、──あ！」
　中をぐいぐい押されて、未知の痺れがつま先まで一気に走り抜けた。
（なにを……してるんだ）
　呆然とした。
　どうしてこんな、バカバカしいこと。
　虎徹さんと、セックスの真似事なんて──バカなこと。</description>
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         <category>Tiger&amp;Bunny</category>
         <pubDate>Thu, 08 Dec 2011 00:36:48 +0900</pubDate>
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            <item>
         <title>冬コミ情報更新しました。Pixivとか。</title>
         <description><![CDATA[Webの古い情報を訂正して、<a href="http://vitalage.cc/order/lessis/" target="_blank">冬コミの紹介ページ作って</a>（まだもう一冊行く気だけど）、<a href="http://www.pixiv.net/member.php?id=3435092" target="_blank">ｐｉｘｉｖ用のページ更新して</a>、<a href="http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/01/17/040030011765.html" target="_blank">委託手続きやって</a>（【追記】予約始まってましたー）気づいたら夜中になってました＿|￣|○　手際悪い……。見て見ぬふりをしていた大量の古い情報が嘘すぎたのと、未だｐｉｘｉｖがよくわからんのが敗因です。ウィジェット貼り付けだけでどんだけいじくってんだ。結局、カッとなって一ヶ月だけプレミアムにして背景色変えた。なんてプチブルだとは思ったけど後悔はしていない……。でも、ウィジェットに漫画形式って反映されないんですね！　なんか悔しいからイラストの方にも販促用イラストぶっこみたいなあ。（あれ、わたしの書いた小説とは雰囲気違いすぎるってほづみさんが自没したのを、虎兎らしい良い絵だと思ったんでノベルティにして救出しました。かっこいいよねえ！）
<script src="http://source.pixiv.net/source/embed.js" data-id="23504967_17df08855508e6ac455692a4b8d84768" data-size="medium" data-border="off" charset="utf-8"></script><noscript><p><a href="http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&amp;illust_id=23504967" target="_blank">【2011年冬コミ】虎兎新刊</a> by <a href="http://www.pixiv.net/member.php?id=3435092" target="_blank">関涼子</a> on <a href="http://www.pixiv.net/" target="_blank">pixiv</a></p></noscript>
そうそう、ｐｉｘｉｖに載せてる内容紹介とこっちに載せているのは、中身が若干違うのでよかったらどっちも見てください。虎の穴さんに委託も久々にお願いしたんですけど、そっちのサンプルもちょっと違います。サンプルファイル作りがあまりにも面倒だったので、ちょっとずつ作業してたらその都度違うものになっていた……（苦笑）宣伝の選択肢が増えて嬉しい反面、手間が膨大になっている気がするのはわたしだけでしょうか。pixivだけに絞ればいいのだろうかと思いつつも、IDないんですとお問い合わせいただいたりもしたので、結局あっちもこっちも状態に。
でもってわたし、久しぶりすぎてhtmlタグ忘れてる。ガーン……。]]></description>
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         <category>001new</category>
         <pubDate>Wed, 07 Dec 2011 01:18:27 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>Less is More</title>
         <description><![CDATA[<img src="http://vitalage.cc/order/lessis/images/lessis.jpg" border="0" class="img_L" alt="bookimage" /><strong>発行：</strong>2011年12月30日
<strong>価格：</strong>700円 
<strong>サイズ： </strong>A5 （ フルカラー／オフ ）
<strong>ページ：</strong> 72P
<strong>【販売予定】</strong>

「Tiger＆Bunny」の虎徹×バーナビー、小説本です。関個人誌。

表紙<a href="http://elanblade.com/" target="_blank">ほづみりや</a>、挿絵を<a href="http://www16.big.or.jp/~megu-/" target="_blank">長浜めぐみさん</a>にお願いしました。
<a href="http://vitalage.cc/order/lessis/" target="_blank">中身のサンプルはこちら。</a>

冬コミでノベルティ配布します。（なくなり次第終了となります）
また、<a href="http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/01/17/040030011765.html" target="_blank">とらのあなさんで通販をお願いしています（事前予約あり）。</a>]]></description>
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         <category>list</category>
         <pubDate>Wed, 07 Dec 2011 00:56:00 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>新刊一冊入稿終わりましたー</title>
         <description>一冊終わりましたよーよー。虎徹×バーナビー本。またもや申告より20ページぐらい印刷屋さんに嘘つきました。（昔は倍ぐらい嘘ついてたからマシになった。たぶん）うんでも大丈夫、100ページ行ってないし。
仕様はまたのちほど。現在宣伝ページ作成中です。あっ、表紙は安定のほづみさんに、挿絵は長浜めぐみさんに無理言いましたハハハハ！　すんげーかっこいいから刮目して待て（＠ルナ様）。

とりあえず、印刷屋さんから「じゃあ作業始めるねー」というご連絡もいただいたので、机が空っぽとか、恐怖の事態にはならずに済みそうです。遊びに来てくださいねワーイ。なにぶん宣伝不足なのでのんびりしていると思います。（1/1000じゃなかなか発見してもらえないよなあ。もー今回はホント純粋に自分が楽しみに行くかんじです）
というわけで、二冊目にダイブ予定です。間に合うかなー。

そうそう。いまさらですがHeroAward2011、ビューイング行ってましたよ。昼夜両方！　夜の方がみなさんリラックスされていてノリの良い進行でしたね。ファイアー姐さん間に合ったし！　（ていうか、珠妃ちゃんちゅうがくせいって……！）
最近平田さんがもう、素でかわいくてしょうがないです。なにあのかわいいおじさん……！
でもってバニ田さんはたまにはったおしたいです！　ハッハッハ。
剛さんマジエンジェルだし、なんだろう、久々に声優さん熱いです。イベント楽しいなあ。映画楽しみだなあ！</description>
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         <category>001new</category>
         <pubDate>Sat, 03 Dec 2011 16:05:59 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>冬コミ取れましたー</title>
         <description><![CDATA[ 2日目東地区　M-33a 「vitalage」です。
激戦っぽいからなーと、なんとなく書き出せずにプロットで止まっていたのですが、いいからさっさと書けという状態に相成りました。ありがたいことです＾＾　机の上がすっからかん、ということにならないようにがんばりますー。二冊行きたいんだけど、という気合いを込めて印刷所予約してきました。あと、買い損ねていたオフィシャルをぽちっとして、再放送をPSPに入れて。残るは書くだけだよ！（それが一番大変なんだよ！）
しばらくイベントに参加していなかったので物珍しく<a href="http://twitcmap.jp/" target="_blank">twitcmap</a>とやらに登録したり、印刷屋さんのオート見積もり作成でぽちぽち遊んだりなどしました。いやあ、すごいですね。２年かそこらでずいぶん便利になったなあ。

あ、関係ないけど先日舞台BASARA行ってきました。毎回思うけど、役者さんがキャラにぎりぎりまで寄せてくるのがホントすごい。今回なんか金吾さんが激しくあらぶってたので驚きました（笑）うますぎるわ！　いままでより積極的に「笑うとこも入れようぜ！」っていうテイストになってましたね。宴会一気とか長すぎるだろ……（笑）（上演時間も長かった。夕飯食べ損なうとこだった）
真面目なところは家康すごいかっこよかった……！　で、やっぱ３は光成が一番すきです。わたしが行った回は光成EDだったんですけど（家康倒しちゃうやつ）不覚にもじんとした……いい話！
でもわりと見ているだけで幸せなので、書く気がないどころか同人誌も買ってないのです。（いや、イベントでかっこいい本見つけたら買うだろうけど。冬コミは日程違うのが残念）好きの度合いと、書きたいかどうかはあんまり関係ない。不思議。
データ引き継ぎ？　があるらしいし、宴が出る前に、３を予習しとかなきゃー（ちゃんと原稿やりながらね！）。]]></description>
         <link>http://vitalage.cc/text/archives/2011/10/28/2348_2227_body.php</link>
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         <category>001new</category>
         <pubDate>Fri, 28 Oct 2011 23:48:16 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>白昼の催涙～Move To The Whistle_03</title>
         <description>　噛みつくようにもう一度キスをしてから、俺は大塚先輩の襟首を掴んで壁へ押し付けた。
「痛……っ」
「ぶら下がってるだと……？　アンタがか？」
　乗り上げた身体の上で、胸が苦しげにひくりと波立つのがわかったけれど、もう、どうでもよかった。背骨へ食い込むみたいなきつい衝動、怒りに近い、熱いものが身体中を焼いていた。
（知ったことじゃねえ）
　いまは涼しい顔をして、全部わかった顔をしている目の前の男を打ち倒したかった。
「適当なこと言うんじゃねえよ、アンタみてーなヤツが浚われるわけねーだろ……さらわれるような連中のことなんざ、これぽっちだってわかンねえだろう！」
　血を吐くように叫んだ。
「いくつもいっぺんにペルソナ出せるようなヤツに、俺らのなにがわかるっつうンだよ！　昔っから顔知ってるヤツが吊されたことだってねえくせに……アンタそれ、花村先輩の前で言えんのか!?   バカにするのも大概にしやがれ……ふざけんな！」
　言い出したら止まらなくなった。
「よそ者のアンタはここをあと半年で出てく！　事件が片付こうが、稲羽の連中が何人吊されて死のうが、アンタにゃ関係ねえ。そうだろ!?　そんなことくらい、頭の悪ぃ俺にだって最初からわかってら。けどな、だからって……笑いながらそういうこと言うんじゃねえよ！」
　あと半年経てばこの男は去っていく。ここじゃない、都会とやらへ帰って行く。こんな田舎とは違う、ものもひとも山ほど溢れた場所へ行って、全てを忘れてしまえる。そして年に一度くらいやって来ては「元気にしてるか」などと、変わらない涼しい顔をしてきれいに笑うかもしれない。
（こっちの気もしらねえで）
　否、頭のいい彼はわかっているはずだ。マヨナカテレビ、特捜本部、シャドウ。彼にとってはつまらない田舎の日常に降って湧いたママゴト、正義の味方ごっこ。退屈しのぎの遊びだ。本当は誰が死のうと構わないし、稲羽の結末がどうなっても関係ない。うつつか幻か、真相がどうあれ協力する義理もないのだ。ここは一年限りの宿り木、単なる道ばたでしかない。でなければ、こんな簡単に言えるわけがない。
　言えない。
　ぶら下がってるなんて、想像したくもない。
（俺ぁ、言えねえよ）
　まして、好きだなんて。
　言えるわけがない。
（言ってどうすんだ。いなくなるのに？）
　言葉になんてできない。一度形にしてしまったら、きっと執着が強くなりすぎていまよりも囚われてしまう。それが怖い。
（いなくなっちまうくせに）
　襟を掴む腕に力をこめ、俺は歯ぎしりした。だが、先輩は怒りもしなければ目を逸らしもしない。ただじっと俺を見ている。
　強すぎて、なにも通用しない。
　この男はテレビの中でさえ、傷つかない。ひとはマヨナカテレビの世界でシャドウに食われれば為す術もなく死ぬけれど、先輩は初めからシャドウを倒す手段をいくつも持っている。怪我を治す手段も。現実世界に戻ってくるための仲間だっている。いくら死ぬ思いをしたって、テレビの中の世界を離れれば簡単に消えてしまう。
　全部そうだ。簡単になにもかも忘れてしまう準備が整っている。
「ち……っくしょ」
　せめてこの手で痕を残してやれたらいいのに。目を逸らせないほど強く、忘れられないほどきつく。
　そうしたらきっと、見る度に思い出すだろう。思い出して、笑うかもしれない。暇つぶしにバカなことをしたと思って。
　それでも、いい。
　なかったことになるよりはずっといい。
「…………っ」
　鼻先がつんとしたのを悟られないためにもう一度、くちづけた。
　舌が擦れてくらっとした。頭が眩んでいる。乱暴に大塚の口腔へ舌を突っ込み、嬲りながら、同時にめまいがしてくる。たかがくちびるを合わせているだけで、体の底から得体の知れない震えが立ち上ってきて痺れた。
「……っは、う」
　気怠げに首を振るってくちびるから逃れようとする顎を無理やり掴み、さらに深く奪って、舌を絡め取った。ぬるくぬめった肉で、唾液を交わし合う。くちゅくちゅと生々しい音を立てて耳朶を叩くと、それだけで下腹がどっと熱くなった。
（もっとよこせよ）
　肉が剥き出しの感触をさんざん味わっていると、舌先が歯列に触れた。固くつるりとした粒をなぞって行き来させてみると、やがて敷き込んだ身体が細かく震え始めた。こんなことで震えるのか、と内心驚く一方で、いつも顔色の変わらないこの男が自分の手の中で震えているかと思うと、暗い嗤いがこみ上げた。
（もっと、アンタの中身を全部見せろ）
　暴いてやりたい。これじゃまだ全然足りない。
　こんなふうになる自分を知らない。触れる端から飢えてゆくような突き上げる衝動を、他に知らない。この男でしか、知らない。
　これは、欲だ。
　こんなにハッキリとわかってしまったら、もう目を背けようがない。忘れるなんて無理だ。
「ん……っン！」
　やがて敷き込んだ胸が、不自然に跳ねた。形のいい指が震えながら懸命にシャツを掴んで、空いたもう片方が俺の背を叩いている。仕方なくくちびるをほどくと、大塚はひゅっと息を吸い込んで軽くむせた。
「……っ、く、……は」
　背中を丸め、眉根を寄せて苦しそうにする大塚先輩を俺はただ見下ろした。
「は……っ、は」
　自分も、息が上がっていた。
　心臓が痛い。血の巡りが早すぎて、脳まで辿り着いていない。衝動という名前でひとくくりになったまま、暴力も性欲も区別が曖昧になる。手加減する必要がないせいだ。この頑丈な身体は、自分が欲望のままに振る舞っても壊れない──女じゃない。
　飲み下しきれなかった唾液を拳で拭ってから、間髪入れずに先輩の肩を掴んでもう一度壁へと押し付けて、抱きしめた。
（堅ぇ）
　当たり前だ。女じゃない。
　ブレザーの合間から手を入れてシャツを引きずり出し、指を滑らせると、手のひらの下でなめらかな皮膚がざわりと波立つ。でも、払い退けることはしない。重なった身体からは、荒く胸が上下する様がありありと伝わってくるだけだ。
（アンタ、ホントに頭いいよな）
　水を向けるだけで、最後に本気で食らいつくのはいつだって自分の方だ。
（ああ、そう。アンタの言う通りだ。こんなときにいちいち考えたりしちゃいねえよ）
　余計なことは考えたくない。止まりたくない。もっと触りたい。伸びやかな筋肉と、固い骨は間違いなく男のそれとわかっていてもなお、抱き合ったところで決して結び合うことはないと知っていても、この男が震えるほど自分の胸も甘く震える。息を乱すほど、頭の中がどろどろする。理由はどうでもいい。ただ、気持ちがいいからそうしたい。
（冷静に、こんなこと、できねえんだよ。アンタみてえに）
　くちびるで首筋を辿り、鎖骨へ押し付けた。すると
「……あ！」
　いきなり大塚の口から声が、漏れた。
　驚いて顔を上げると、大塚も驚いた顔をして口許を覆っていた。
（いまの）
　ハッキリそれとわかる、なまめいた声だった。
　たまらなくなって同じ場所をもう一度吸い上げ、軽く歯を立てた。
「……あ、ぅ」
　むずがるように大塚は身じろぎ、切れ切れに声を上げる。窪みに舌を当てて抉るようにすると、ますます声が溢れて止まらなくなった。
「あ、……ぁあ、あ……それ、も、やめろ」
　ちらりと視線だけ向けると、すっかり目縁が赤かった。
「し、つこい……」
　後ろから髪をぐっと掴まれ、浮いた顎を浚うようにくちびるが押し付けられる。
「う、……っ」
　舌先が上顎の裏側に滑り混んできて、くすぐったいのかじれったいのか分かりにくい感触がした。思わず目を瞑るとひどくくらんで、平衡感覚を手放しそうになる。
（くそ……っ）
　慣れた手管に少しだけいらっとして、空いた手で先輩のシャツをまさぐった。指で合わせをかきわけて、再び素肌に触れる。
「ぁっ……つ」
　急にくちびるが離れた。目を開くと、先輩は顎を引いてぎゅっと目を瞑っていた。もう一度擦るように手のひらを押し付け、胸の尖りを押しつぶした瞬間、
「……っン」
　眉根を寄せて呻いたのがわかったから、今度はわざと指でつまみ上げた。
「っ！　……っあ、ぅ」
　何度かねじると、どんどんと息が荒くなる。声が上がると、少しだけ溜飲が下がる気がして、今度は両方を代わる代わる押しつぶして爪を食い込ませる。
「ん……ぅっ」
　びくびくと先輩の身体が跳ねた。ときおりシャツの上から乳暈を撫でまわすと、やがて額から汗が幾筋も流れてくる。
　俺は、どんどん膨らんで腫れぼったい感触になる粒を弄ることにひたすらのめり込んだ。額を濡らした汗が顎を伝い、首筋へ流れ、ほとりと鎖骨へ落ちてゆく。その一部始終を俺はじっと見つめた。ときおり乳首の根元を擦ると、ふるりと透明な汗の玉が揺れて、ごくりとなにか呑み込む仕草で喉仏が上下する。男にしかない喉の果実へ誘われるように鼻っ面を近付け、前歯で軽く囓った。
「…………ッ」
　のけぞった顎から水気を吸い上げると、薄い塩の味がした。肌の匂いがふわりと濃くなる。ちっとも甘くはなく、落ち着きもしない。つんとする雄の匂いだ。余計に脳の奥が痺れ、沸騰して破裂しそうな気さえする。
　これが、俺の腹の底に巣くっていたもの。嫌悪して死にかけた原因そのものだ。
　なのに。
　目の前の男は、目がくらむほどきれいだった。
　男の自分が見ても、きれいなものはきれいだ。骨の描く無骨なラインも、筋肉が形作るしなやかなカーヴも、肌理の整った張りのある滑らかな肌も。上気して漂う汗の匂いさえ。
「……ぁ」
　強弱をつけて乳首を揉み、円を描くように周りをさわさわ撫でることを繰り返した。そのたびに、先輩は声を上げて身を捩る。男の俺に乳首を弄られて、切なげに頭を振るう姿を晒し、垂れ流している。
　だけど。
（幻滅なんて、そんなン、簡単にできねえよ）
　言葉巧みに自分を誘い、いま痴態を晒す目の前の男を軽蔑できたらよかった。気色悪いと罵って終われた。
「センパイ……」
　驚くほどか弱い声が出た。
「……っ、なに」
　返事があった。
「聞くよ、全部……ッア、あ」
　途中でしゃくり上げる声に変わったのは、たまらず俺が胸を抓ったせいだ。
　その声は好きじゃない。誰にでもそう言って声をかけることを知っている。俺だけじゃない。
　それは、誰も特別じゃない。
（俺ばっかアンタのこと、見てて）
　また、苛立ちに似た熱がぶり返してきた。こめかみが痛くなる。
「……っ、た、完二」
　ややあって、呼ばれた。吐息をはんだ、消えそうな声だった。
「それ、痛……っ」
　下手をすると聞き逃しかねない小さな声がした。
　いきなり胸が潰れそうに痛んで、俺は飛び退いた。
　泣いているかと思った。
　泣いてはいなかったけれど、そういう、心弱い音だった。驚きすぎて、こっちの目から涙が出るかと思った。
「殴ればいいじゃねえか……」
　転げ出た声は、まるで喉が潰れたみたいに掠れていた。
　返事はせず、肩で息を吐きながら、先輩は俺を睨みつけた。それから、シャツのボタンを上から全部外した。指が少し震えて、もつれて、つっかえながら一番下まで自分で外し、ブレザーの前立てをことさらに寛げた。
　のぞいた素肌は、白い。なのに、胸の小さな粒だけがはち切れそうに膨らんで赤かった。
　その光景があまりに扇情的で、とたん頭に血が上って、俺は思わず赤い実にむしゃぶりついた。まんまと誘い込まれていると一応わかってはいたけれど、そこでムキになるプライドはもうとっくに消し飛んでいた。
「あ──ぁ、ッア！」
　頭の上で悲鳴じみた声が上がった。構わずに吸い上げ、こね回し、舌先でぐりぐりと押しつぶすと声がどんどん高くなって背中が丸くしなる。
「バカ……やろ、──ぁ、も」
　うなじを引き寄せられ、向かい合わせに座ったまま先輩の腕に頭を抱え込まれた。
「どうすんだ……も、なに、それ、そんなの……すげえきもち、い……あ」
　先輩が全身で何度も跳ねて、いっそうきつくしがみついてくる。隙間がないほど密着する。そこでいきなり、熱くて固いものが俺の腹に当たった。
　制服のスラックスをきつく押し上げているそれがなんなのか、さすがに知らないふりはできない──男同士だから、余計に。
　思わず生唾を呑み込んだ。いくらよく見知ったものとは言え、他人の欲望は生々しくて、さすがに目眩がした。
「完二……？」
　先輩が不審そうに名前を呼んだ。たぶん俺の動きが急に止まったせいだ。
　どうするか一瞬、迷った。だが、気づいてしまったのにいまさら見なかったふりも難しい。俺は意を決して服の上から先輩の股間を掴んだ。
「────！」
　息を呑む音だけがして、俺の首へ回した腕がぎくりと強ばった。
「……ぅ、……く」
　極力抑えようと努力して漏れる熱い吐息が、俺の首筋に当たってぞわりとする。身体を起こしておけないのか、二つ折りみたいな体勢で先輩は俺にしがみついてきた。急にまた、胸がきつく痛んだ。他人がなにか必死で堪えている姿は、必要以上に憐憫を惹起するものらしい。感情の触れが激しすぎて頭がくらくらする。
（けど、こんなとき落ち着いてられるヤツぁバカだ）
　俺は先輩のベルトに手をかけて外し、スラックスのジッパーを下げた。
「完二……」
　止めたいのか呆れているのか、もう考えるのも面倒で聞き流した。ジッパーの下にある下着に指をひっかけてずり下げると、熟れた屹立があらわになる。充血していて、触れるとすっかりぬるぬるしていた。
　こんなふうになるのか、と思わず息を呑んで見つめながら、握って扱いた。
「あ、あ……ちょ、ま、てっ……」
「待っていいンすか。これ、我慢すんのかよ」
「おま……バカそれ、ただの、ＡＶ男優……っ」
　息も整わないくせに先輩が軽口を叩いた。気を紛らわせたいのだろうけれど、腰が揺れている。
「っ、……ッは、く！」
　括れの辺りをいっそう強く扱き上げると、先輩が歯を食いしばっていきなり仰け反った。頭をコンクリートの壁にがつん、と強くぶつけた音がして、腕が俺の肩から滑り落ちる。腕を投げ出し、無防備な胸が上下しているところを見たら我慢できなくなってもう一度舌をはわせた。痕が残るくらいきつく噛んだあと、そうっと先端を優しく吸い上げると喉から細い悲鳴が漏れ、同時に屹立からとろりと滴が漏れて俺の手のひらをさらに濡らした。
「この、……やろ」
　苦し紛れの罵倒が弱々しく聞こえたけれど無視し、滑りのよくなった手のひらで苦しげな屹立をなおも擦ろうとした。
　が、いきなり先輩の腕が俺のスラックスに伸びてきて、引きちぎりそうな勢いでベルトを解いた。
「は？　ちょ、アンタなにしてンだよ！　オイ、う、……あ！」
「うるさいな」
　少し不機嫌そうな声でそう言って、先輩の手が容赦なく俺の中身を引きずり出した。勢いよく下着から自分のものが飛び出したのをうっかり見てしまって、その場で舌を噛んで死にたくなった。だが、そんな暇もなく先輩はためらいも見せずに俺のものをきつく握りこんだ。
「待っ……」
　激痛に近いものが身体の真ん中を突き抜けて、俺は思わず先輩の胸に額を打ち付けた。いきおい先輩の背中がコンクリートに押し付けられる。
「待っていい？　これ、我慢すんのか？」
　頭の上から笑い含んだ声がした。
「ふ……ざけんなっ」
「完二はふざけてできるのか？」
　冷たい声に、俺は息を呑んだ。
「こんなの冗談で握れるか？」
　きれいな形をした先輩の指が俺のものに絡みついた。それだけで、自分のものがぐんと嵩が増したのがありありとわかる。
　初めて、ひとに触れられた。
「う……」
　自分でするのとは違う触れ方と順番と、次の予測がつかない淫猥な動きに、いきなり暴発しそうになって思わず目の前にある先輩の乳首を噛んだ。
「い……っ、て」
　びくりと先輩の身体がすくんで、手が緩んだ。握ったまま止まっていた俺の手の中で、先輩もまた固くなる。再び擦ると、先走りがまたじんわり溢れてきた。指に絡ませて亀頭をこじるとどんどん濡れて、ますます強く反っていく。
　だが、先輩の手も完全には止まらなかった。しかも、こっちが括れを揺すれば先輩の指は俺の括れをまさぐり、ねじふせようと陰嚢を揉みしだけば負けじと同じ動きをした。
「……っにすんだ……クソ……ッ」
「ひとのこと……いえんのか。あ、も……あつ、おまえ、デカい、なにこれ……むり」
　ぽつりぽつりと、譫言みたいに先輩が独りごちる。下手に声を出すと叫びそうだったから、俺は黙って先輩の性器を擦ることに没頭した。なのに追随してくる先輩の指のせいで、目を瞑っていればまるで自慰をしているみたいな錯覚に陥りそうだった。
　上り詰めそうになると指を緩め、息が整い始めるとまた擦ることを繰り返し、お互いがお互いの手の中で痛いくらい張り詰めるまで大した時間はかからなかった。先輩の呼吸の間隔が短くなって、いつしか片言の声も聞こえない。背をたわませて俺の肩に頭を乗せ、身体の熱を呼気に乗せて懸命に吐き出している。けれど、そんなことではもう到底収まりがつかない。
　どろどろになったそれを、俺は擦り立てた。
「は……っん、……あ、ああっ」
　少し苦痛の混じった声が上がった。
「……っ、く」
　遅れて先輩の手も激しく揺れはじめ、俺は必死で息を殺した。叫べない代わりにこめかみがガンガン痛んで、眦の隅に涙が滲む。それを見られないように、俺も先輩の肩口へ顔を埋めた。滑らかな肉が頬に当たる。快感に痺れた顎がだるくて、柔らかいそれを噛みしめたくなった。
「いっ……た！　いて……、い、あ、も……ダメ出る、出す」
　とたん、手の中にどろっと熱いものが大量に零れた。膨らんで弾けるさまをありありと手のひらで感じたら鳩尾がわっと熱くなり、俺も我慢ができなくなっていきなり射精した。
「あっ──」
　目の前が、本当に、白く眩んだ。大した分量でもないはずなのに、出しても出しても止まらない気さえした。勢いよく吹き出した俺の精液が、先輩のむき出しになった胸を濡らした。なのに咄嗟になにもできず、俺は肩で息をしながらただ先輩の汚れた胸をぼんやりと見つめた。
　なんだかもう、なにもまともに考えられなかった。
　まだ残暑の残る秋空の下で、全身ぐしょ濡れだった。階下では年に一度の文化祭が行われている。耳を澄ませば、笑いさざめく生徒たちの声が間近に聞こえる。そんな場所で、ずぶ濡れになっている。汗の吹き出した皮膚、濡れて張り付いたシャツ、汚れた下着。もうドロドロだ。
（なにやってんだ、俺ら……）
　先輩を見た。まだ少し赤い顔をしていて、形のいい顎に向かって汗の滴が流れている。少し辛そうなのが気になって見ているうちに、滴る水を舌で舐め取りたい、と思っている自分に気づいて、また愕然とする。病気としか思えない。おかしな熱にやられて、頭がどうかしてしまっている。
「これ」
　声と一緒になにか、顔を目がけて飛んできた。
「やるよ、ティッシュ。拭いてそれ仕舞え」
　ハッと気づくと、先輩はもう身繕いを済ませてシャツのボタンを留めているところだった。
　慌てて投げつけられたポケットティッシュを開けて始末し始めると、先輩がなにも言わずに立ちあがった。だが、彼はその場に立ち尽くしたまま言わない。
（……ンだよ。なんか言やぁいいだろうが）
　横たわる重い沈黙はなんだかバツが悪くて、なかなか顔が上げられない。罵られた方がまだマシだ。
　そうして自分からは会話の接ぎ穂も見つけられないまま俯いているうちに、ややあって上から降ってきた声はたいそう冷ややかだった。
「少しは気が済んだ？」
　さっきまでの熱を微塵も残さない声のせいで、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
　熱くて──あつくて、熱を持て余して死ぬほど汗をかいていたのに、一気にバケツで水を浴びせられたみたいにざあっと血の気が引いた。
「まだなんかあるなら聞くよ。どうしたい？」
　喋り終えるまで待てなかった。
　俺は立ちあがって、瞬間的に拳を振り上げていた。
　頬めがけて叩き付けると、先輩が吹っ飛んで勢いよく壁に激突した。
「……いてえ」
「なんなんだよ、それは……」
　俺はひとりで呻いた。それはもう、誰に聞かせる声でもなかった。
「お情けでやらせてやったって、そういうことなのかよ……っ！」
　自分でもなにを言いたいのかよくわからなかった。怒っているのか、それとも──悲しいのか。
（けど、そのとおりじゃねえか。さんざ先輩をいいようにして、これでもまだ足りねえって文句言うつもりなのかよ。こんなはずじゃなかったって）
　なにか、もっと期待していたのか。
　大塚和臣は誰にでも好かれる、優しい男だから。
（だから？　拒否られたりしないから？　赦してくれるから？）
　──違う、そうじゃない。
　与えてくれるから好きになったんじゃない。
　好きだから、欲しいと思った。
（だけど……こんなン、サイテーじゃねえか）
　俺はそれ以上なにも言わず、先輩に背を向けた。うまい言葉が見つけられなかった。先輩も俺を引き留めたりしなかった。ただ無言で、俺が出て行くのをじっと見ていた。
　重い金属でできた屋上の扉を閉め、背を押しつける。
　屋上へ上がる薄暗い階段には、誰もやってこない。今日は文化祭で、いまごろはみんなあちこちの教室で行われている出し物に夢中だ。床板一枚分、扉ひとつ向こうにはひとがいる。
　けれど、こんなところへは、誰もやってこない。
　誰にも来て欲しくない。俺の顔を見ないでほしい。
　俺の頭は──今日はとりわけ──どこかがおかしい。
（欲しがったのは俺じゃねえか）
　与えられて、なのに少しも満足できていない。満たされるほど足りなくて、乾いている。自分の思い通りにならなかったからと言ってだだをこねる──そう、月が手に入らないと言って泣く子供みたいに。
（それとも先輩が女になりゃ気が済むのか。先輩が帰らなきゃ満足なのか。俺のことを……好きなら）
　ひとつ叶えば、ふたつ目が欲しい。ふたつ目の次はみっつ。みっつ目の次はよっつ。きりがない。
　こんなことをしていたら、いつか誰かを本気で壊してしまうかもしれない。
　心の奥に誰かを住まわせることは、もっときれいで、優しいものだと思っていた。心を穏やかに、手を取り合って生きて行くための。
　もし、これがひとを好きになるということなら、恋愛なんてもう一生できなくていい。
（サイテーだ）
　俺はしばらく階段の途中にしゃがみこんで膝を抱えたまま、動けなかった。</description>
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         <category>02kansh</category>
         <pubDate>Wed, 19 Oct 2011 00:09:40 +0900</pubDate>
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            <item>
         <title>濡羽色の目眩～Move To The Whistle_02</title>
         <description>　足早に駆けていく完二の背中をぽかんと見送ってから、花村が俺を振り返った。
「あいつら、大丈夫か……？」
「平気じゃない？」
　軽く肩をすくめて嘯いて見せたが、しかし花村はますます渋面を作った。
「心配ならついていけば？」
「冗談だろ、見つかったら完二に殺されるって！」
「うっわー……完二くん案外やるねー」
　里中が眉根を寄せて腕組みすると、ちがうちがう、と花村がすぐさま反論する。
「やるっつーとスイッチ入ってガッツリやっちゃうからヤベーんだろ、アイツの場合」
「ああ、まーそうか……うん」
「あれ、すごかったよね……」
　天城の呟きに、花村と里中、クマまでもが力強く頷いた。
「すごかった……」
「すごかったクマ……夢に出そうだったクマ」
「アイツにゃ悪いが全力で引いた……」
「なに？　なんの話？」
　りせだけがきょとんとしている。
「いやあ、ま、まあ世の中知らなくていいこともあるっていうか、むしろできるなら忘れたいっていうか……ハハハハ……」
　花村がしらじらしくしらを切ると、りせが分かりやすくムッとする。
「なぁにー？　あたしだけ仲間ハズレ？　それってなんかかんじわるーい！」
「いや、そういうことじゃなくってね。その……ねえ、キミもなんか言ってよ」
　里中に容赦なく肘でどつかれた。
「うわっ。……なんかって、うーん。そうだな」
「もーひっどい、先輩まで！」
　ますます膨れるりせの額を、俺は人差し指でつまはじいた。
「いったあ！」
「はい、もうこの辺でオシマイ。あんまりみんなを困らせないの」
「そんなんじゃないもん」
「いくら友だちだからって、あれこれ聞かれたくないこともある。完二もテレビの中に放り込まれたうちのひとりで、いろいろあったってことだよ。りせだって、あのときの話はあんまりしたくないだろ」
「そうだけど……」
「りせのいないところで、俺たちがあのときの話で盛り上がってたら嫌じゃない？」
「……うん」
　わかった、と小さくりせが頷いたから、くしゃくしゃと頭を撫でてやる。少ししょぼくれた顔が可愛かった。
「んじゃ、俺らも解散すっか？」
　タイミングを見計らっていたらしい花村が切り出した。
「大塚の言うとおり、まあ……大丈夫じゃね？　なんたって直斗の件は完二の勘違いだったんだし、そんなとんでもないことするやつでもないだろ、……たぶん」
　花村の提案に天城が頷く。
「そうだね。それに、今日はちょっと疲れたかも……そろそろ帰ってゆっくりしたいな」
「大丈夫？　雪子。あたし家までおぶってこっか？」
「やだ、平気だよ。それに千枝だって疲れてるでしょ。テレビの中で戦うの久しぶりだもの」
「……あ、そっか」
　里中がぱちりとまばたいた。
「考えてみたらあたしら、夏休みって全然テレビの中に行ってなかったんだよね」
　花村が頷く。
「久保が犯人じゃなかった、ってなると、また事件が起きてもおかしくないってことだ。俺らもちゃんと体力つけとかないとな……」
　花村の言葉に、全員がしんとなる。
　事件は終わっていなかった。
　久保美津夫が逮捕され、どうにか解けたと思っていた殺人事件のロジックは崩壊した。まったくの振り出しに戻ってしまったのだ。
　こうなるといつまた他の誰が連れ去られるか、見当もつかない。直斗救出ミッションの達成感よりも、不安の方がより強く、全員の胸へ重い濃い影となって兆した。
「──今日はもうやめよう」
　俺はことさらのように軽く言って全員を見回した。
「全員でがんばって直斗は助かった。これでしばらくは安心。今日は休んで明日からまたゆっくり考えよう。いままでだってそうしてやってきたんだから、大丈夫」
　花村が大きく頷いた。
「そうだな。俺らは今日、できることを全部やって、うまくいったんだし」
　言いかけた花村を、誰かの声が遠くから遮った。ジュネスの店員が、フロアの向こうから花村の名を呼んでいた。
「あ、ヤベ。そろそろ閉店準備だ、くっそ」
「これから手伝うんだ？　大変だな」
　花村はやれやれ、というポーズで肩をすくめた。
「しゃーない。最近人手が足りなくってさ。おい、クマ。オマエも手伝え」
「ええー！　クマはたくさん働いたから休みたいクマよ」
「居候がなに贅沢言ってンだコラ。──んじゃな、お疲れさん」
「ヨースケ痛いクマ！　クマ毛を引っ張ったらダメクマァ！」
　嫌がるクマを引きずりながら花村が手を上げ、フロアの向こうへ姿を消した。
「あたしらも帰ろっか？」
　里中が残りの全員を見回して言う。
「そうだね」
「うん、そうしよ」
　天城とりせも頷いた。
「あ。じゃあ、俺が全員送ってくよ」
　手を上げて言うと、一斉に女子が俺を振り返った。
「い、いいよ！　そんなことしなくて」
　里中がうろたえた声をあげて、慌てて首を振った。
「なんで？」
「なんでって……ねえ？」
　里中がちらりと天城に目配せし、天城も困ったようにりせを見た。
「だって先輩、お家びみょーに方向違うし……」
「完二が直斗を送って行って、花村がジュネス手伝ってて、俺だけさっさと帰るってのも格好悪いよ」
「そんなん……別に格好悪いとかないよ。ねえ？」
「うん」
「そうだよ」
　彼女らは口々にそう言ったが、しかし軽く首を振り、苦笑してみせる。
「俺、こう見えて結構見栄っ張りなんだ。頼むからそれくらいさせて」
　行こう、と声をかけて、俺はジュネスの出口へ向かってゆっくりと歩き出した。
「え……ど、どうすんの？」
「どうって」
「うん、なんか……悪いよね」
　困惑した視線とひそひそ相談する声がみっつ、背中にぶつかってくる。全員でわいわいやっているときと俺ひとりを相手するときとでは、どうも彼女たちの勝手が違うらしい。
（まあ、そんなもんかもな）
　かくいう自分も、女子の相手をするとなれば多少は格好つけたくなる。このメンツでいまさら男アピールしてどう、ということもないのだけれど。
（なんだかんだ言ったって、男より女の子の方が優先順位は上だよな。たぶん、すごく生き物的な話で）
　単純に「男の方が女より頑丈な造りをしている」という事実に基づいた、とても原始的なプライドじゃないかと思う。
「んー」
　途惑う里中と天城の声を押しのけて、りせの声がした。
「先輩がいいって言ってくれてるんだし、いーんじゃない？」
　宣言する声と共に背中からりせが突っ込んできて、俺の腕へ絡みついた。
「待って、せーんぱいっ！」
「おっと」
「えへへっ、ホントに送ってもらっちゃっていーの？　先輩」
「うん」
「やった！　……だったらあたし、いっそこのまんま先輩んちまでお持ち帰りしてもらっちゃおうかなー？」
　そう上目遣いで言ってから、りせはくちびるをほんの少し尖らせて見せる。ほんのりピンク色のリップグロスで色づいたくちびるに自然と目が行く、そういう角度だった。彼女の、自分が可愛いとわかっていて甘える仕草はわかりやすい。思わず苦笑した。
（こういうの、俺はあんがい好きだけど）
　女の子はきらきらしていて、可愛い。やわらかくていい匂いがする。別の動物だなと思う。
「あ、持って帰るで思い出した。りせの豆腐買って帰ろうと思ってたんだっけ」
「……ちょっとっ、先輩っ！」
「ん？　なに」
「もぉ。そーやってすぐ話逸らすんだから」
　ふん、とりせがふくれっ面でそっぽを向いた。大して怒ってもないくせにわざとするそれも、なんだか健気だなあと思う。
「お豆腐なんてどうでもいいでしょ。いじわるっ」
「ひとんちの晩飯をどうでもいいとか言うなよ。りせんちの豆腐とガンモ、うちで好評なんだぞ。それに、この間りせのおばあちゃんが言ってた。最近朝早くからりせが手伝ってくれてすごく助かってるって」
「ホント……？」
「本当、ほんとう。そんな一生懸命なら、俺もりせの作ったやつ食いたいし」
　にっこり笑って言うと、急に照れくさそうにりせが俯いた。
「けどまだ、全然……ひとりじゃ難しくてできないし。いっぱい失敗するし」
「そりゃ、おばあちゃんとりせじゃキャリアが違うから。焦らないでがんばれば、いまにりせにしか作れない美味い豆腐がちゃんと作れるようになるよ」
「なにそれ。先輩、その言い方ってなんかマネージャーみたい」
「そう？　まあ、アイドルやるんでも豆腐作るんでも根っこは一緒なんじゃない？　りせが一生懸命やるってとこが可愛いんだから」
「可愛い？」
　上目遣いに、まっすぐりせが見あげてきた。わりと本気の目をしていた。
「うん、根性あって俺は好きだけど」
　だから俺も、正直に答えた。
　すると、りせは小さく頷いて、たっと道の先へと走り出した。
「りせ？」
「しょーがないから、今日は先輩たちに譲ったげる！　あとでお店に寄ってね、大塚先輩！　先に帰ってお豆腐用意しとくからっ」
　大きな声でそう言うと、りせは短いスカートを翻して商店街へ行く通りへ消えていった。
「どうしたの？　りせちゃん」
　後ろからついてきていた天城が心配そうに聞いた。
「俺が豆腐買って帰りたいって言ったら、とっといてくれるって。準備しとくから先にふたりを送ってきていいって言われた」
「へえー。おいしーから売り切れちゃうのかなあ」
　首を傾げてから、里中が声を上げた。
「あ、雪子のうちでも今度お客さんに出してみたら？」
「いいんじゃない？　うまいよ、りせのばあちゃんが作る豆腐」
「うん、じゃあ帰ったらお母さんに言ってみる」
　天城が頷いた。
「大塚くんの家はよく買うの？　菜々子ちゃんも好き？」
「美味しそうによく食べるよ。おかずに品数足りないときすごく助かる。栄養あるし」
　天城が驚いたようにまばたいた。
「大塚くん、お台所もするの？」
「するってほどじゃないけど、毎晩買ってきた弁当食うのもなんか味気ないから、たまに簡単なもの焼いたり炒めたりする程度。天城んとこの夕飯と比べられたら困るよ」
　すると、天城が焦ったようにふるふると首を振った。
「うちもそんなすごいもの食べてないよ。お客さんじゃないもの」
「ええー！　雪子んちのご飯すっごい美味しいよ！　賄いっていうの？　あれも、すっごい美味しい！」
「へえ、里中のお墨付きってことはそうとう美味いんだな」
「違うよ。千枝が大げさなだけ」
「そんなことないですよーだ」
「うん、不味いもの美味いっていうヤツじゃないよな。里中は」
「そうそう」
「美味いもの奢れとは言うけど」
「そうそう。……って、大塚くん！」
　怒った里中と目が合ったとたん、ぎゅるる、と腹の鳴る音がした。
「ぷっ……ち、千枝ってば……いま、お腹……！」
　とたんに、天城が吹き出した。
「や、やだっ！　なし！　いまのなしっ！」
「あは、あはははは！」
「なにツボ入ってんのっ！　もうやめ！」
「だって千枝……あはははは！」
　里中が恥ずかしそうにずんずん歩き出し、天城が楽しげに肩を振るわせて、ふたりが俺の一歩先を歩いて行く。
「さっさとやめないと、大塚くんにあのこと言っちゃうんだから」
「え、なに？」
「だからー。────って、ね？」
「えっ、やだ。千枝、ダメダメ！」
「どうしよっかなー」
「ダメってば！　千枝だって──でしょ」
「なに言ってんのっ、んなことないないっ」
「だからおあいこでしょ」
「えー」
（女の子同士って楽しそうだな）
　ころころと他愛もないことで笑い合いながら、ときどきひそりと内緒の話をする。ささめき交わす言葉には、彼女たちだけの秘密が隠れていて、知りたいような、そっとしておきたいような││不思議な感じがする。
「ねーねー大塚くん」
　突然、前を歩いていた里中が俺を振り返った。
「雪子って女の子らしくて美人だよねー？」
「うん。──なんでまた、突然？」
「ちょっと、千枝！」
　天城が困ったようにこっちを見たから、もう一度頷いて見せた。
「天城目当てに、旅館へ泊まりに来る人がいても驚かないよ。美人だし」
　ぱっと、天城が顔を赤らめて俯いた。
「そんな……やだ、変な気を遣わないでいいから、大塚くん」
「いや、本当に。顔がキレイな子はたくさんいるけど、美人ってそういうことじゃないし。もちろん天城は顔もキレイだけど、プラス人柄があってこそ美人なんじゃない？　安心感があるっていうか」
「安心……？」
「うん」
　大まじめに頷いて見せた。けれども、天城はまだ納得いかない、という顔をして、じっとこちらを見つめている。
「そうだな……なんて言ったらいいんだろう、信頼感とか？　俺や里中がいくら強くても、俺たちだけじゃシャドウと戦えない。天城が後ろで見ていてくれて、なにかあったら必ず正しい助け船を出してくれるってわかってるから、前を向いて戦える。そういう天城の心映えもひっくるめて初めて美人、っていうのかなって気がするけど。
　宿って疲れたひとが安心して休める場所だろ。普段の天城を見てると、天城屋もきっと居心地いいんだろうなって思うよ。だから、天城が未来の美人女将って言われても全然不思議じゃない」
「うわっ、大塚くんってばいいこと言うー！」
「あ、やっぱり？」
「──って、それ言わなきゃもっと株が上がってたね」
「おっと、詰めが甘かったか」
「あ、あの……」
　里中と軽口を叩いていると、天城が立ち止まって指差した。
「ふたりとも、送ってくれてありがとう。もうそこだから」
　老舗の天城屋旅館は今日も繁盛しているらしく、部屋の明かりがいくつも障子越しにやんわりと温かに灯っている。
「今日はありがとう。またね。──おやすみなさい！」
　ぺこりと頭を下げてから手を振り、天城はそそくさと宿の裏手へ小走りに消えていった。
「雪子、おつかれー！」
「またな」
　天城の姿が消えた辺りで、里中がくすりと笑んだ。
「雪子ってば照れてる、照れてる。大塚くんもうまいこと言うなー。さっすが、モテる男は言うこと違うねー」
「なに言ってんだか。里中が話を振ったから、俺は正直に答えただけだよ」
「……ね、あのさ。大塚くん。聞いてもいい？」
　こそりと里中がボリュームを落として囁いた。
「その、……りせちゃんとは付き合ってんの？」
「いや？」
「……即答なわけ？」
「だって付き合ってないから、他に答えようがないよ」
「へー……そっか。じゃあ、じゃあさ……雪子のことって、その……好きだったりする？」
「うん」
　頷くと、里中が渋面を作った。
「あ、あのさあ。キミ、さっきからなんでも即答しすぎじゃない？」
「里中が答えがひとつしかないことを聞くからです。言っておくけど、俺はりせも天城も好きだし、もちろん里中も好きだよ」
「あ……っ、あたしのことはひと言も聞いてないでしょっ！」
「聞かれる前に言っとこうかと思って」
「き、聞くわけないでしょっ!?」
「なんで？　だって、俺が仲のいい女子ってあとは里中しかいないし。それに、言っておくけど俺、モテてないから」
「うっそだあ！」
「そこ、簡単にひとをウソ吐き呼ばわりしないの」
「だってウソじゃん」
　あんまり里中がムキになって言うから、思わず苦笑した。
「モテてないない。少なくとも俺は感知してない」
「それって、単にキミが知らないだけってことじゃん」
「俺が知らないんだから、モテてるうちに入らないよ。告られまくってるとかならともかく、俺の視界に入らないことまで意識できないって。それに、強いて言うなら、いま俺がモテたいと思うのは特捜本部のみんなだけだから」
「またあ、そういうこと言って」
「だいたい、モテようと思ってたらもっと器用にやってるよ。たぶんね」
「……なにそれ、自信満々？」
「まあ、それなりに。こっち来るまではいろいろあったし」
「そう、なんだ？」
「うん。いま思うと……楽しいことが他になかったのかもしれないけどね」
「ふぅん……」
「不謹慎だけど、いますごく楽しいから。別にモテなくていいよ」
　まだ疑わしそうな顔で里中が俺を見あげていたけれど、でも、本当のことだった。
　友だちがいなかったわけじゃない。遊ぶ相手に事欠くこともなかった。だけど、こんなふうに密な時間を過ごしたことはいままで一度もない。
　見あげると、空にはもう、うっすら月がかかっていた。周りは一面畑で、家の明かりがぽつりぽつりとあるばかり。視界を遮る高いものはひとつもなくて、色鮮やかな薄暮の真ん中を悠々と電線が突っ切っている。
　そんな他愛もないことにいちいち心を揺さぶられるいまの自分が、自分でも本当に不思議だ。
（気が紛れれば何でも良かったはずなんだけど）
　たぶん、生きて行くことが以前より少しだけいとおしい。だから、自分以外の誰かを大事にする気持ちが少しだけ分かってきた気がする。
「さて、行くか。ちょっと遅くなっちゃったな。早く帰らないと家のひとが心配する。──里中？」
　歩き出そうとしてから、ふと、里中が少し困った顔をしていることに気づいた。
「どうした？」
「あの……ごめん」
「なにが？」
「なんかあたし、変なこと聞いちゃって……その」
「？　別にそんなことないよ」
「えっと……あの、さ。もう帰ってへーきだよ、ホラ。うち、もうすぐそこだし」
「すぐそこならお供しましょう、お嬢さん」
「な、なに言ってんの！」
　里中の頬が急に、ぱあっと赤くなった。里中はいつも気っぷが良いのに、女の子扱いすると困るところがちょっと可愛い。
「そっちこそ、なにいきなり遠慮してんの。ほら、いくぞー」
「だから、いいってば」
「なんでそんな突然拒否られんの？　俺」
「……そういうんじゃなくて」
「だったらあとちょっとくらいお供させて」
　笑って言うと、里中はなにか言いたそうに口をパクパクさせて、けれども後が続かずに黙り込んだ。夕焼けの色をすくいとったみたいに真っ赤な顔をして、居心地悪そうにトボトボと歩き出す。
「あ」
　その足取りにふいと思い当たることがあって、俺は足を止めた。
「ひょっとして怪我、まだ痛んでる？」
「え……？」
「基本テレビからこっちに怪我は持ち越さないけど、痛みや疲れは残るもんな。なんならおぶるよ。さっき戦ってるとき、天城のこと庇って右の足首ひねったろ？」
　目をまんまるくして、里中が立ち止まった。
「……見てたんだ」
「バッチリ見てました」
「だってあんなの……ほんのちょっとだよ」
「里中、前で戦ってるから俺の近くにいるもん。気づくって」
「めざといよ、大塚くんてば……」
「ごめん」
　ちっとも悪びれずに謝ったのに、里中は神妙な面持ちで首を横に振った。
「最近ちょっと修行不足だったから。それ、忘れてて……それで。だから」
「久しぶりだったもんな。しょーがない。俺も気づいてたくせにいままで忘れててごめん。……ほら」
　俺は里中に背中をむけてしゃがんだ。
「い、痛くないから！　これくらいっ」
「いいから。家すぐそこなんだし、大した距離じゃないし。ひともいないから恥ずかしくないよ」
「だっ、だから、大丈夫だって！」
「里中が平気でも俺が心配になった。いいから素直におんぶされろ。じゃないと完二みたいに無理やりだっこするよ？」
「う……っ」
　背後で怯む気配がしたあと、そろりと俺の肩に小さな手が触れた。足の位置を確認してひょいっと担ぎ上げると、頭の上で「うひゃあっ！」と悲鳴じみたものすごい声がした。
「里中、いまのそれ、ちょっとおもしろい」
　堪えきれなくて思わず俺は吹き出した。
「だっだっ、だって！　大塚くんがい、い、いきなり……っ」
「ごめんごめん。ほら、ちゃんと俺の首につかまって。落ちるよ」
　俺が歩き出すと重心が変わってビックリしたのか、ひしと里中が首に取りついてきて背中にくっついた。
（胸、やらかいなー）
　思ったよりあるな、とは、さすがに口には出さずにおいた。
「ホント……ごめん、あたし」
　しょぼくれた声がした。
「なんで里中が謝るんだ？」
「あたしが、もうちょっとうまく立ち回ってたらって」
「そんなことない。里中はがんばってた。俺が見てたんだから間違いない」
「けど……」
「それ言うんだったら、見えてた俺がフォローするべきだったってことになるだろ？　一番失敗してるのは俺」
「な、なんで？　そんなことないよ！　だって……大塚くんはリーダーで、他に考えることいっぱいあるんだから」
「うん、そうやって俺が足りないところをみんなが助けてくれる。それに里中ならなんとか切り抜けてくれるんじゃないかって、ちょっとアテにしてた。ありがとな」
「……ずるいなあ、大塚くんは」
　大きなため息と一緒にぼやく声がした。
「そーやってひとを喜ばすのうまいんだもん」
「そうか？　さっき天城にも言ったけど、別におだててるつもりないよ。むしろ、みんなずいぶん俺に優しくしてくれるなって思う。ちょっと不思議なくらい」
「……そんなこと言わないでよ。ごめんて言いづらいじゃん」
「だから、言わなくていいんだって」
　里中の頑迷さに思わず苦笑した。すると、
「あのね。……あたし、直斗くんの気持ち、ちょっとだけわかる気がするんだ」
　ややあってから里中がぽつんと呟いた。
「あたしも小さいころ、男の子だったらよかったなって思ってたもん」
「どうしてって、聞いてもいい？」
　ことり、と肩に小さな頭が傾いできた。
「……あたし、小さい頃におままごととかお人形遊びとかぜーんぜんしなかったんだよね。秘密基地作ったり、毎日あっちこっち走り回ったり、そーゆーほう好きだった。友だちも男の子ばっかりで」
「里中らしいな」
「だけど、ある日突然仲間ハズレにされたの。小学校の、二年生くらいのときかなあ」
「そりゃまたなんで」
「女はあっち行ってろよ！　って言われたの、いきなり」
　また、大きなため息が聞こえた。
「ああ……なるほど」
　微かに、身に覚えのある感覚だった。それまでは一緒にどろんこになって遊んでいたのに、あるときを境にして、子供たちは唐突に知る。
　男子と女子、お互いがとてもよく似た別々の生き物であるということを。
　きっかけはなんだろう。青と赤で名前を書かれたときからだろうか。それとも、別々に整列させられたときからだろうか。そうやって意思とは関係なく区別され、区別されることによって徐々に認識するのだろうか。
　それとも、たとえ意識に上らなくても、初めから知っているのだろうか。
　理性と本能の境目はどこだろう？
「女は、って言われちゃうとどうしようもないじゃん？」
「でも、里中はそこで黙ってないだろ？」
「……まあね」
　バツの悪そうな声で里中は続けた。
「なんで女はダメなのってケンカした。そしたら女はよわっちいからダメだって」
「それで修行始めたんだ？」
　無言なのはおそらく、肯定だろう。
（ああ、ヤバイな。俺、ひょっとして慰められてる？）
　さっき俺のタブーに踏み込んだと思って、そのお返しに自分の話をしてくれた、ような気がする。
（ひとがいいな、里中。そんなんじゃ俺の方こそ心配になるよ）
　ころりとどこかで悪い男に騙されて、こっそり泣いたりしそうで。
（これじゃますます誠実な男でいないとダメだな、俺）
　あんまり全部さらけ出したら、きっと幻滅されてしまうに違いない。
「──そうか、なるほど」
　俺はわざとらしく咳払いした。
「お陰で里中の脚力が養われて、現在の俺は命拾いしてるってことか」
「あ、あのねえ。茶化さないでよっ」
「茶化してないない、お礼にそいつぶっ飛ばしたいなあ。どこの誰？　まだその辺に住んでるんじゃないの？」
「え？」
　里中が驚いた声を上げた。
「や、やだ、なに言ってんの大塚くん……アハハ」
「そっちこそなに笑ってんの」
「だってぶっ飛ばすとか、キミらしくないし」
「そう？」
「らしくないよ。全然」
「だって里中は強くて可愛い女の子だよ。俺は頼りにしてる。バカにされたら俺も腹立つ。……まあ、俺がぶっ飛ばさなくてももうとっくに里中がやってるんだろうけど」
「う、うっさいなあ！」
「そんなの気にしなくたって、直斗も里中もすごくかっこいいし、強いよ。柔らかいから」
「柔らかい？　えっと……まあ、柔軟体操は得意だけど」
「違う違う。男なんてちょっと頑丈なだけで、女の子より全然弱いって話。女の子みたいに全部受け止めようと思ったら絶対壊れる。ガラス落としたら割れるけど、綿とかスポンジなら落としても平気だろ」
「えー……なんかそれ、すっごい誤魔化されてるカンジ」
「誤魔化してないって。さっきも言ったけど、俺は里中のことかなりアテにしてる。だからさ。凹んだときぐらい俺を頼りなよ。愚痴っていいから」
「え……」
「信用しなよ。頼りないリーダーかもしれないけど、俺はちゃんと里中のこと見てるし、嘘は言わないよ。約束する。──っと、家、ここだっけ？」
　里中、と書いた表札の前で立ち止まると、慌ててうん、と彼女が頷く。ゆっくりとしゃがんで下ろしてやった。
　地面へ降りるときに少しだけひょこっと不自然な動きはあったけれど、それほど痛んでいるふうにも見えずホッとした。ゆっくり風呂にでも入ってぐっすり眠ったら、きっと明日には治っているだろう。
「今日は俺のいいようにさせてくれて、ありがとな」
　そう言うと里中が眉を顰め、恨めしそうにくちびるを尖らせた。
「もお……大塚くんは……」
「ん？」
「さっきから言ってるのに。先に大塚くんに言われたら、あたしが……お礼言いにくいじゃん」
　里中が上目遣いでこっちを睨んでから、少し笑った。
「あのね、……だから、その。あたしもいま大塚くんたちと一緒にいられて、ちょっとは役に立ってるって思えて……すっごい嬉しいし、楽しいよ」
　ほっぺたは、まだ真っ赤なままだった。
「今日はありがと──また明日ね！」
　里中が門扉を引いて中へ入ると、奥からやんちゃそうな犬の吼える声がした。それから、ただいまーと弾む声、微かな飯の匂い。
　空の朱はいつの間にか、裾から濃い蒼に染まっている。
（釣瓶落とし、って言うしな）
　俺はひとり、行きとは別の道を歩き出した。賑やかな虫の声が急に聞こえ始め、湿気の少なくなった風が俺の脇をすり抜け、下生えを掻き分けて走り抜けていく。
　秋の足音だ。このあと冬が来て、春になる。
（……本当に？）
　秋さぶ空気に身をひたしながら、そんなふうに思う。別れ際にときどき思うことと少し似ている。
　──じゃあね。ばいばい。また明日。
（来るのかな？）
　明日の保証なんて誰もしてくれない。
（どうしてみんな疑わないんだろうな）
　女の子はみんな一生懸命で、勇気があっていい。
　きらきらと笑って「明日ね」と言ってくれると、まあ、少なくとも明日まで世界は無事なんだろうと思う。
　そうやって、ひとりになったとたんに言葉遊びじみた余計なことを考える。
　男が強いなんてたぶん、神話みたいに美しい青表紙だ。
「俺、女の子だったらよかったかな……？」
　一度だってそんなことを思ったことはないのに、口に出して言ってみたら案外抵抗感がなかった。
（……簡単に言えるってことは、どっちだって構わないってことなんだろうな）
　虚勢でも強がりでもない。刹那的なつもりもない。ただ、自分にそれほど興味も執着もないのだと思う。なにかがあるとすれば、それはとても簡単なホメオスタシスの原理だけだ。
　ひとは「つねにその状態でいよう」とする性質がある。暑ければ汗を出して体温を下げようとするし、寒ければ筋肉を震わせて体温を上げようとする。心も同じだ。盛り上がればあとは下がる一方。それなら波風は最初から少ない方がいい。高くなれば低いところへ、低くなれば高いところへ自分がシフトする方がいい。
（だから俺は、ペルソナがいくつも持てるんじゃないかな。別に特別なんじゃなくて）
　本当の自分なんて、どこにもいない。自分の正体なんて、自分が決めるものじゃない。
　俺の性別が男であることも、ワイルドの能力を手に入れたことも、俺が決めた事じゃない。様々な外的要因に照らしだされ、相手の目を通して初めて「俺」という人間の影が浮かび上がる。俺がいくら精緻なイメージを持って美しく輪郭を整えたところで、真後ろから見たら全く別の誰かに見えるはずだ。婦人と老婆が交錯する、トリックアートのように。
　尻ポケットに突っ込んである携帯電話がちりちりと鳴り始めたのは、そんな他愛もないことを考えているときだった。



　間を置かずに、俺はすぐに通話ボタンを押した。
「もしもし」
　けれど、返事がなかった。
「……もしもし？」
　着信画面で相手が誰かはわかっていたけれど、名前を呼んでやったりはせずに待った。
「その、……俺ッス」
　ややあって、ぽつんと声がした。
「うん。で、なに？」
　そっけなく言うと、また長めの沈黙が返ってくる。受話器に当たらないよう注意しながら、俺は大きく息を吐いて、長い影の尾を引く電柱に背を預けた。
　あおのいて顎を上げる。
　空はもう、すっかり朱の成分を払拭してしまっていた。這い上がってきた蒼にどんどんと塗りつぶされ、おそらく大した間も置かず漆黒になるだろう。けれども悪い気はしない。黒は、夜の闇は無じゃない。ここへ──稲羽へ来てから初めて知った。
　一日の全て、きれいなものも汚いものも全部呑み込んで手を広げた大きな翼。あるいは優しく空を包み込む、ゆったりと重い天鵞絨のカーテン。それは、穏やかな手触りで誰をも平等に優しく包んで、陽に曝され疲れた身体を癒してくれる。
　闇を畏れる必要はない。
　いまの俺は、どんなときも決して消えることのない炎を持っている。
　この手の中に、持っている。
「なにか用？」
　ゆっくりと目を閉じた。
「その……送って来たっすよ、直斗の野郎」
　野郎じゃないだろ、と言いかけて、やめた。
　そんなのは無粋でバカバカしい。すごく。
「うん、お疲れ。ありがとうな」
　できるだけ丁寧に、優しく言った。波立つ胸の裡とは反対になるように。
　自分がそうありたいと、初めて、思った。
「別に……先輩に礼を言われることじゃないッス」
「俺が行ってやれって言ったんだ。完二が疲れてるのわかってて」
「そりゃ……まあ。けど、アンタがリーダーなんだから。当たり前ッスよ。や、じゃねえ……ああ、クソっ」
　小さな舌打ちが聞こえ、静かになる。
（バカだな）
　これじゃ、つまらない。
（もっとなんか言え、完二）
　こんなんじゃ足りない。
（もっと欲しがれよ）
　じゃなきゃ、意味がない。
　男同士で惹かれ合うことなんてくだらない。そんなもの、本当はこの世に必要ない。生き物の摂理の外側で、それでも理屈を吹き飛ばすぐらいの強さがなければ。
（もっと俺をぶっ壊してみろよ）
　じゃなきゃこんなの、ただの麻疹みたいな通りすがりの病だ。
　おまえなんて、いらない。
　全然いらない。
「その……先輩は、いま、家スか」
「ううん、まだ外」
  驚いたのか、ひと呼吸あった。
「外って……いままでどこでなにしてたんスか。あのあと、まだなんかあったンすか？」
「や、別に。……なに？　俺に用ある？　なんか、いますぐ会わなきゃいけないような」
「…………や、そういうんじゃねえけど、よ」
　そう言ってまた、声が途切れる。
（気に入らない）
　わざわざ電話してきたくせに。
　少し焦れて、苛ついた。
「女の子全員、家まで送ってたんだ。そろそろ帰るとこ」
「……なんでアンタがそんなことやってンだよ」
　すぐにに噛みついてくる。簡単すぎる。
「いいだろ、別に」
「俺が聞いたことに答えてねえンだよ」
「特に差し迫った理由はないけど。俺の手と体力が空いてたってだけ。完二が直斗送ってったのと一緒」
「それは、あんたが行けっつったからだろ！」
　無遠慮な怒鳴り声が、受話器を突き抜けて鼓膜へ当たった。
「……どうしてッスか。なんでアンタさっきから俺に、なんも聞かねえンすか」
「完二がなにか聞いて欲しいことがあるなら、聞くよ。いつでも」
「どうしてさっき、俺に……行けっつった」
　ひとつの浸みも許さない、勁い白の声がした。
　それは真夜中を力ずくで暴こうとする、太陽の光にとても似ている。
　真っ直ぐに闇を切り裂く光だ。
　たったひとつ、闇もろとも俺を真っ二つにする力だ。
「完二なら行ってくれると思ったから。──直斗、大丈夫だった？」　
「ちゃんと家の前まで担いで行ったッスよ」
「そうか」
「……全然、軽かったッスよ」
「うん、だろうな」
  俺と比べたら。
（軽いに決まってるだろ）
　おまえにも、わかったはずだ。俺と直斗を比べることがどれくらい不毛で、意味がないかってこと。
（電話なんかしてくるなよ。バカだな）
　俺の声を聞いて、安心なんてできるわけないのに。
（俺は男なんだから）
　そんなことだから、あんなマヨナカテレビになるんだと喉まで出かかった。
　完二が直斗を好きなことぐらい、わかっている。完二は男で、直斗は女だ。一目見て、目が合って、心が動けばそれでおしまい。至極簡単な話だ。
（なのに、そのあと俺に電話なんかしたら、全然一件落着にならないだろう？）
　俺を振り切るチャンスがあるとしたら、今日、さっきのタイミングしかなかったのに。
（バカだな）
　思わず声を上げて笑いそうになって、慌てて口許を押さえた。
　わかっていて選んだのなら、俺なんて全部くれてやる。
（だから、もっとちゃんと本気で欲しがれ）
　意味はない。倫理という名前の神も味方をしてくれない。きっと誰が見てもくだらなくて、バカバカしい。
　でも、俺が認めてやる。
　たとえ誰が誹ろうと、俺が絶対に許してやる。
　いままで誰も見せてくれなかった本物の熱を、おまえが俺にくれるなら。
（だからもっと俺の脳みそを壊してその気にさせろ）
　まだ、足りない。
「……先輩、聞いてンすか」
　喉元の震えを必死に押さえていたら、完二の少し困ったような声がした。
「聞いてるよ」
　返事をしながら、俺は制服の前立てとＹシャツを開いて寛げた。
（あついな……）
　外はもう、秋の気配を滲ませてしんと迫ってきている。
　なのに──完二の側は四六時中真夏みたいにあつい。

　だから俺は、たぶん、このまま真冬になってもきっとよぶんな汗をかく。</description>
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         <category>02kansh</category>
         <pubDate>Wed, 19 Oct 2011 00:00:29 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>薄色の真実～Move To The Whistle_01</title>
         <description>「わっ、ととっ！　大丈夫、直斗くん？」
　直斗の肩を担いだ里中先輩が慌てた声を上げた。大丈夫です、と遠慮がちに返す声は弱々しく、よろめいた背中はとても小さい。
「えーウソ、無理してるっぽーい！　でも、この辺ってタクシーなんか走ってないし……」
「あ、うちにハイヤーの連絡先があるかも。電話してみる？」
　周りを取り囲んだりせや天城先輩らが代わる代わる声をかける合間、本当に大丈夫ですから、という小さな声がもう一度聞こえた。
（どこがだ、畜生）
　細い足はガタついているし、肌は色白を通り越して青白い。マヨナカテレビだの、シャドウだの、説明の難しいこっちの事情を説明しなくても、具合が悪いことくらい誰だって一発でわかる。
「やっぱ俺らもついてくか？　さすがにちょっと危なっかしいよなあ、アレ」
　花村先輩が困ったようにぼやいて、頭を掻いた。
「まあ、てきとーに担ぐわけいかねーけど……女子だし」
　短い髪、落ち着き払ったアルトの声、男子制服、骨張った手足、世間の噂──。
　少年探偵、白鐘直斗。
（バカじゃねえのか）
　本当に、頭にくる。
　俺の、脳みそが。
（なんもかんも、全部勝手にしてやられてたんじゃねえか……俺が）
　初めて会ったときから俺の目は本当のことを全部見ていたし、耳はちゃんと聞こえていた。
　──自分を認めて欲しい
　──かっこいい男になりたい
　必死で自分自身を否定して、無理やり背筋を伸ばしていた彼女に、すぐに気づけたはずだ。
　他の誰でもない、俺だから。
　気づけたはずだった。
（だからもう一度会いてえとか……思ったんじゃねえか）
　全く同じパルス、シンパシィ。
　だからこそ、あのとき声をかけたのだ。なのに。
　あのときの自分は自信がなくて、真っ直ぐにモノが見られなくて、頭で余計なことを考えすぎていて。
　彼女が出すＳＯＳの意味を少しも受け止められなかった。
（畜生……ッ！）
　我ながら役立たずのトサカ頭と思っていたが、ここまで来ると三歩歩いて忘れるニワトリどころか、刺身のつまが刺さった豆腐もいいところだ。
（その辺の角にぶつけていっぺん死にさらせ）
　助け出せたからいいものの、あと一歩間違えば直斗は死んでいたのだ。無残な姿で吊されて。
　ぞっとして、背筋がそそけたった。
　まだ事件は終わっていない。自分が一歩間違えばひとが死ぬのだ。次が誰かわからない。
　近所の誰かかもしれないし、誰かの大切なひとかもしれない。
　母親かもしれない。
（冗談じゃねえ）
　可能性はゼロじゃない。
　嫌な汗が背中を滑り、喚きたいのを堪えて奥歯を噛んだ。とたん、
「行ってやったら？」
　ふいと横からそっけない声が飛んできた。
　そいつが俺に向かって命令した言葉だとわかるまで、たっぷり三秒くらいかかった。
　ひとつまばたいてから隣を見ると、声の主と目が合った。
「行ってやれば」
　目の前で相手の口が動いて、ゆっくりともう一度、似たようなことを言った。その音が頭蓋骨を震わせて、俺の豆腐でできた役立たずの脳みそに届くまで──長い一瞬。
　たぶん声を聞き終わる前に、俺の身体が動いた。
　いつもどおりのスピードで。
　頭で考えるよりずっと、早い速度で。
「うわっ……た、巽くん？」
　ひょいと担ぎ上げると、直斗が驚いた声を上げた。
「うっそ、マジ？」
　続いてりせが甲高い声を上げる。
「お姫様だっこ？　やだっ、完二ってばだいたーん！」
「うっせえ！　おまえらがフラフラしてっからだろ！　……おい。おまえン家、どっちだよ」
「え……？」
「家はどっちだっつってんだよ！」
　腕の中に縮こまっている直斗に目を向けると、小さな口をわずかに開いたまま、ぽかんとこっちを見ていた。想像より至近距離だったから、思わず目を逸らした。
「ちょっと完二ってば、このまま直斗くんお持ち帰りする気？」
「なんか悪ィか!?　ああ!?　こいつ家まで連れて帰らねーとひとりじゃどうしよーもねーだろうが！」
　いちいち騒ぐりせを更に一喝してから、俺はジュネスの売り場を大股でつっきって外へ出た。
「あ、あの……巽くん、下ろしてください。僕、ひとりで歩けますから」
「ウソ吐けッ、この野郎！」
　顔も見ずに吐き出すと、ややあって直斗が控えめに俺のシャツを引いた。
「でもほんとに、おろしてください」
　困り果てた声がした。
「大通りに出ればタクシーだって少しは走ってますから。巽くんも疲れているのにこんな、悪いです。重いだろうし」
「……何度も言わせんな。いいから家、どっちだっつってんだよ」
　とっさに口から飛び出そうになった言葉を呑み込んで、俺は別のことを言った。　
「さっさとしやがれ、でねえと稲羽署に投げ込むぞコラ」
「いったいどういう脅しなんですか、それは」
「さっきテメエが言ったんじゃねえか、ありのままの自分ってヤツを受け入れるんだろ？」
「え……？」
「いまのテメエがドロッドロのヘトヘトなことくらいわかれっつってんだ、バカ。なんの相談もなしにわざと浚われて、勝手にテメエの中身ブチまけて、弱っちいトコさらけて、さんざ泣き言わめいたあげくに俺らにボコられてよ。歩くのもしんどいくせして大丈夫だとか、どの口がほざいてやがる。これ以上手ぇかけさせんじゃねえよ」
　口を挟む隙がないくらい言って押し黙ると、ややあって「わかりました」と直斗がため息混じりに頷いた。
「よろしく、お願いします」
　ずいぶんしおらしい声だった。




　俺は直斗が指し示した方へ無言で歩いた。直斗も大人しく腕の中へ収まって、角々へ来る度に右だの左だの、ぽつぽつと口にした。
　なのに俺はまだ、イライラしていた。
　抱えた腕から伝わってくる直斗の気配は弱々しい。華奢な身体は疲労でしなだれていて、ひどく可哀想な感じがする。
　どこもかしこも柔らかくて、稚い。
　女だから。
「……そんなに男がいいのかよ」
　思わず、ぽろりと口から転げ出た。直斗の視線が頬の辺りへ突き当たるのがわかったから、目が合わないようになるべく遠くを見ながら続けた。
「いいじゃねえか、女で」
「すみません」
　かすかに笑いをはむような声が返ってくる。
「バカだなって、自分でも思うんです」
「ああ。バカだ。……ったく、天才なんてまるっきりウソっぱちじゃねえか」
「幻滅しましたか？」
「しねえよ」
　吐き捨てるように返事をすると、戸惑いを含んだ視線がぶつかってきた。けれど、無視して続けた。
「どいつもこいつも勝手にそいつのことを枠にはめて、あーだこーだって決めつけて、そんでフタ開けてみりゃこんなん全然違うっつって文句言うんだよ。そういうもんだろ」
「巽くん……」
「本当の自分なんてモンを全部知ってるヤツなんざいねえんだから。しょうがねえだろ。百人いりゃあ百人が勝手言うし、ましてやテメエの言い分なんざ一番アテになりゃしねえ。テメエの理想ってヤツを押し付けて、勝手にガッカリして……けど、そんな立派なヤツぁどこにもいねえよ」
「どこにも……いない」
　繰り返し呟いて、直斗が小さく頷いた。
「そうかもしれませんね。……僕は、どこにもいない僕をずっと捜していた。非の打ち所がない、光り輝くような僕を。月が手に入らないってさんざん駄々をこねていたわけか……本当に、子供みたいだ。恥ずかしいです」
　直斗が、空に向かって腕を持ち上げた。つられて見あげると、暮れかけた薄色の空には薄く月がかかっている。
　俺も足の歩みを止めて、眺めた。
（似てンだな、やっぱ）
　直斗の告白を聞きながら、ぼんやり思う。
（かっこいい男の大人になりてえ、とか言ってよ……阿呆くせえ）
　わかってみれば簡単な話だ。無理して自分を偽って背伸びしている姿が自分とよく似ていたから、気になった。放っておけなかった。側にいてなにかしてやれないかと思った。
　それを自分は、男だなんだと勝手にややこしくして、トラウマを肥大化させた挙げ句に死にかけたのだ。
（バカがあれこれ考えてもロクなことがねえな……先輩らにも手ぇかけさしてよ）
　だが、事件に巻き込まれたからこそいまの自分がある。
（先輩らも、りせも、クマ公のヤツだってそうだ。コイツも）
　自分だけじゃない。みんな語りたがらないけれど、誰もが弱い己と戦っている。自分、という最大の敵と渡り合って、転んで、お互いに手を取り合ってここまで来た。
　それは決して無駄じゃない。
「けど、……月は悪かねえ」
　手に入らない何かに憧れて、ただ上ばかりを見て走って、転んだって悪くない。無茶をやって起き上がって目の高さが変わったら、違う道を見つけることだってあるはずだ。
　想像もつかなかったなにかが待っているかもしれない。自分の頭ではとても考えつかないようなことが。
「……ええ、そうですね」
　直斗の頷く気配がした。
「月を夢見て手を伸ばすのは悪いことじゃない。月になりたがったりしなければいいだけなんですよね。地面にいる自分と月の距離を見て絶望したりしなくていい。だって、人間は40年以上も昔に月までだって行けたんだから」
「オイ、小難しいこと考えてっと、またあっち連れてかれっぞ」
「そうでした。気をつけます」
　軽口を叩いてからどちらからともなく黙って、もう一度、空を見あげた。
　冴えた光を放っていて、どこからでも見つけられるのに、そのくせ一向に掴めず、手の間をすり抜ける。
　非の打ち所がない、光り輝くような。
（「月がきれいだな」）
　ふいと胸に兆した面影があって、俺は慌てて月から目を逸らした。
「だけどまさか、巽くんにお説教されるとは思ってませんでした」
　くすりと小さく笑う声がして腕の中へ視線を転じると、大きな黒い瞳がこちらを見あげていた。
「……悪かったな、ガラじゃなくてよ」
「いいえ。僕も巽くんを枠にはめていただけだって気づきました。幻滅もしてません。……ありがとう」
　直斗の薄い口端が少しだけ持ち上がって、緩いカーブを描いた。疲れた顔ではあったけれどさっきまでとは違う、どこか吹っ切れたような、いい顔だった。
（かわいいじゃねえか）
　何気なくそう思ってから、急に照れくさくなった。
「べ、別に……礼言われるようなことはしてねえ、し……」
　口から必死に絞り出した声がどもると、腕の中の甘く柔らかな身体がくくっと面白そうに揺れる。
「ンだよっ」
「なんでもないです」
　直斗が肩をすくめ、みじろぎした弾みで背骨が手のひらに当たった。
（……マジで柔らけーな）
　小さくて、どこも丸みを帯びていて、いい匂いがする。
　誰に何を言われたわけでもないのに、優しく大切にしたい、守ってやりたいと思う。溢れてくる気持ちはガラにもなく穏やかで安らかで、伝わってくる温かな温度にゆったり身を任せているとひたすら心地良い。ただお互いに身を寄せているだけ、触れているだけでこんな気持ちになるなんて、思いも──
（「いいよ、──さわって」）
　いきなり腹の下がずくんと音を立てて、震えた。
「巽くん？　どうかしましたか？」
　驚いた全身が跳ね、その弾みに腕の中の直斗が気づいて首を傾げた。
「……なんでもねえ」
　少し乱暴に言って、俺はまた歩き出した。直斗がまだなにか言いたげにしていたけれど、気づかないふりをした。
　まさか、正直に答えられるわけがない。
（なに考えてンだ……俺は）
　ちがうに決まっている。
　そんなのは当たり前だ。抱き上げた感触が同じわけがない。
　あのとき抱え上げたのは、もっと骨っぽくて、ずっと重くて──背骨が焼けるような熱の塊。
（先輩は、……女じゃねえよ）
　俺は黙って、足を速めた。
　まるで月に背中を押されて、追い立てられているみたいな気がした。</description>
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         <category>02kansh</category>
         <pubDate>Tue, 18 Oct 2011 23:47:18 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>白銀の告白～DiveIntoTheFire_03</title>
         <description>　ゆっくりとくちびるが落ちてくるのに気づいて、悩んでいるいとまはなかった。
　目蓋を伏せる。
　ややあって、触れるだけの簡単なキスをされた。
　手管の欠片もない、幼いそれは驚くほど優しい感触がした。まるでそっと宝石に口づけるみたいな、せいいっぱい上等にしたキス。
　薄く目を開くと、完二の頬は暗がりでもわかるほどすっかり血が上って赤くなっている。いつもそうだ。
　でも、この間とは少し違った。自分も、完二も。
　目蓋を開ききるより早く、完二のくちびるが細かく降ってきた。霧雨みたいな穏やかさで触れては合間に息を継ぐ。くちびるだけでなく、こめかみも首筋も、頬も、薄いくちびるがそろそろと行き来し、軽く吸っては離れた。
　重なった場所から、ゆっくり、ゆっくりと温度が上がっていく。それはじれったいほど穏やかで、かえって恥ずかしくて、大塚は身を捩った。おかげでせっかくの浴衣はすっかりぐずぐずに崩れてしまった。
　ぱたり、と頬に水の粒が当たる。汗だ。肩で呼吸しながら、完二が真っ直ぐに見下ろしていた。彼の広い額には汗の滴がいくつも浮き、遠くの電灯がもたらす微かな明かりできらきらしている。落ちて頬まで流れてきたそれを舌で舐めとってみた。塩辛い。
「…………」
　完二がため息みたいな片息を落とし、今度は少し強引にくちびるを合わせてくる。すかさず舌を絡め取られた。
「──ふ」
　肉と肉が触れあい、擦れるたびに頭の芯が痺れた。差し出される舌を必死で受け止めつつ、大塚は口腔の隙間からどうにか細い息を吐いた。胸が熱を持って重たくなってゆき、息をするたびに肺が軋んで痛む。呼吸がこんなに難しいなんて初めて知った。これがいつまでも続いたら死んでしまう気がする。
（くらくらする）
　喘ぎすぎて眉間とこめかみの辺りが眩み、余った熱は角膜に飛び火して、目頭を圧迫した。たかがキスで涙が出そうになる。
　仕掛けるのはいつも自分の方だ。けれども完二がひとたび走り出すと、ひたむきすぎて、気づけば自分の方が先に溺れかけてしがみついている。こんなあけすけになにもかも差し出されると、どうにかして全部受け止めてやりたくなる。
　否、全部絡め取って自分のものにしたくなる。
　こんなに胸が震えるものを他に知らない。放したくない。
「────っ」
　ふいと完二の指が直に胸元へ触れ、驚いて膝がびくりと跳ね上がった。あまりの勢いに完二も驚いたらしく、くちびるを放して大きくまばたいた。
「あ、ワリ……その、すんません」
「いや、ちょっとビックリしただけ」
　お互い息が乱れ、声も掠れていた。喉がからからだ。身体の内側にある水分が足りていない。いくら夜気とはいえ夏だから外気も暑い上、お互いくっついて汗もかいている。
「先輩」
　気遣わしげにこちらを見下ろしたまま、完二の動きが止まった。目淵が赤い。たぶん、興奮しているせい。
「なに」
　だが完二は答えないまま、顔からさらに下へ視線を落とした。
「平気だから。……あんまり、見るなよ」
　身につけた夜色の地は大きくはだけ、膝が襦袢を割って丸出しになっている。襟元も大きくくつろげられて、肌を闇へ隠す役目をまるで果たせていない。
　自分の姿にいたたまれなくなって思わず目を逸らす。
　が、すぐにおとがいをやんわり掴まれて引き戻され、再びキスをされた。
「──ん」
　やんわりと触れるくちびると、胸を行きかう指の肌当たりに、思わず濡れた甘い声がこぼれ、鼓膜に沁みる。自分の声がまるで別人のようで恥ずかしく、けれども驚くほど気持ちがよかった。いままでしたどんなキスよりも、どんな愛撫よりも拙いのに、皮膚がとめどなくざわめく。
　だけど、本当はもっと翻弄してくれた方がいい。優しいばかりのゆるい熱ばかり味わっていると落ち着かない。そんな丁寧にしなくていい、と思う。
（女の子じゃないんだし）
　乱暴にしても強引にしても壊れたりしない。あんまり気遣われると、逆にどうしていいかわからなくなる。
　いままでした恋愛のどれとも勝手が違いすぎて、当てはまらなくて、次に打つ手がうまく見つからない。
　だいたい、これが恋愛の範疇にあるのかどうかもまだわからない。もし女の子との間にこういう昂揚感があったらもうとっくに寝ている気がするけれど、じゃあかつてのあれが本当に恋愛だったかと改めて問われると自信がない。そもそも、気づくと相手のことが頭に浮かんでいてぼうっとしてしまうようなことが、いままでの人生に何度あっただろう。
（覚えてない）
　だとしたら、やっぱり自分にとって性別は大した問題ではないのかもしれない。
　重要なのは、いまの自分が完二に反応しているということだ。
「センパイ」
　がさがさした低い声は、腰に重く響く。完二の声は心地良くて好きな音をしているから、呼ばれるとうっかり震えそうになる。それを、しつこくこちらを見下ろしている完二に気づかれそうで、困る。
「だから、あんまり見なくていいって。……珍しくもないだろ」
　顔なんて年中見ているのだし、身体は同じ男だ。女の子の身体ほど観賞価値はないはずだ。なのに、完二は眉を顰めてきっぱりと反論した。
「珍しいに決まってンだろ」
「どこが」
「アンタ、自分がいまどんな顔してっか分かってンのかよ」
「自分じゃ見えない。俺の顔がどうしたって……ぅあ、ちょ、待て」
　完二の指が急に滑って太腿に触れた。思わずヘンな声が漏れて、慌てて自分の手のひらで口を塞いだ。
「だから、いきなり触るなよ……ビックリする」
　まだ、辺りにひとがいるかもしれない。いくら神経が図太いからと言って、男ともつれあってキスしているところを目撃されたいとは思わない。それじゃ露出狂だ。通報されても困る。
　とりあえずさっと辺りを見回したが、ひとの気配はしない。息を吐くと、完二が小さく咳払いした。
「……え、えっー……と、その、なんだ」
　見ると、顔が真っ赤だ。おまけにどもっている。
「ン、じゃあ、……いまから触るけどいッスか」
　強い語調で始まって、それからどんどん尻つぼみになってゆく。
「いやまあその……なんつか、ダメならダメで……いいんスけど」
　強気なのか弱気なのかわからない。思わず苦笑しそうになるのを堪えつつ、大塚は頷いた。
「いいよ。──さわって」
　見つめながらひそりと言うと、完二が目を逸らして俯いた。
　ややあってから太い指がそろりと皮膚を撫で、腿から足許へ向かって徐々に降りてきた。くすぐったいのと疼くのを足して二で割ったような、妙な感触する。皮膚がぞわぞわして、鳥肌が立ちそうで、落ち着かない。
「それにしてもヘンな趣味だな。なんで足？」
　気を紛らわせようと口を開くと、完二がこちらを睨んだ。
「……いいだろ別に」
「いいけど。ただ触ってもあんまり楽しくなさそうだなって、単なる俺の正直な感想」
「ンだよっ、いちいちゴチャゴチャと！　いいのかよ！　ダメなのかよ!?」
「だから、いいって言って……痛っ、痛て……や、待って完二そこ、擦るな」
　腿を這っていた指がふいと膝に触れて、思わず声が跳ねた。完二も感触がおかしいと思ったのか、すぐに動きを止めた。
「どしたんスか、これ。──怪我？」
「言ったろ。草履が脱げて転んだ」
　人混みが落ち着いたころに改めたら、痣になった上にすりむけていた。完二が傷口を検分するようにじっと顔を近付け、眉根を顰めた。
「あの、どんだけ派手に転んだんスか……？」
　呆れ返った声に、少しだけカチンときた。
「悪かったな、おまえみたいに歩けなくて」
「ハ？」
「……草履なんてまともに履いて歩いたの初めてだから」
　腹立ち紛れに言いながら、できないことをわざわざ告白するのはやっぱり気分がよくない、と思う。実は相当の見栄っ張りなのかもしれない。なにか人並みにやろうとして困ったことがあまりないから気づかないだけで。
「こっちは」
　完二が、今度は反対の足に触れた。
「いや、鼻緒が切れたの右足だから、左は──わ！」
　いきなり完二が右の足首を掴み上げて持ち上げた。
「ウソつけ、こっちも血ィ出てンじゃねーか！　親指ンとこ！」
　足の裏を睨んでから、そのままのおっかない顔で睨まれた。もしその辺で誰かが見ていたら、きっとあまりの人相の悪さに走って逃げ出したに違いない。
「こんなんで、裸足で道路歩いてきたってのかよ、ああ？」
「……ええと、ちょっと待った。なんでそんな凄まれなきゃならないのか分からない」
「聞いたことに返事しやがれ！」
「だから言ってるだろ。草履が履き慣れなくて鼻緒が擦れて……靴擦れならぬ草履擦れ？」
「ンなら、さっさと言やぁいいだろうが！　皮めくって血ィ流してまで草履履く必要がどこにあんだよ!?」
「着物で靴じゃ様にならないし」
「アンタ、バカか？　ホントはすげえバカなのか？　そんな理由でなにもそこまでするこたねえだろバカ！」
「……あのさ。おまえ、なんでそんな怒ってんの？」
「怒ってねえよ！」
「じゃあ、なんで怒鳴ってるんだ。それに俺、最初にちゃんと聞いたろ。もう少しゆっくり歩いたらだめかって。転ばないように手も繋いだまま歩いた」
「……は？　そ、……いや、けど、あれは」
「おまえが着物似合ってたから、思わずみとれた。完二のこと見てたって、それもちゃんと言ったよな？　せっかくだし俺も着物で並んで歩きたかった。──他に聞きたいことは？」
　完二がぽかんと口を開けて言葉を失った。
（もう、いろいろ台無しだ）
　細かく説明すると本当にみっともない。余裕があるふりをして誘ったのがバレるなんて、女の子のデートでもやらかしたことがないのに。
　こんな朴念仁相手にひとりで空回りして。
「わかったらもういいだろ。足、下ろせよ。血が下がる」
「……わかんねえよ」
　ややあってからぽつりと、完二が呟いた。
「もっと……ちゃんと言えよ。わかんねえ。俺ァ頭わりーし」
　恨みがましい視線で睨まれた。これはたぶん、本気で怒っている──気がする。
「わかりてえから」
　足許に跪いたまま完二が両手で右足をそっと包んで、傷口へ舌を這わせた。
「痛」
　小さく抗議の声を上げたけれど、無視された。
「完二、痛い……って」
　ぴちゃぴちゃと湿った音がして、生暖かいものがぬるぬると皮膚を擦る。丁寧に指の間を舐められた。
　いきなり、ぶるりと震えた。
（なんか……なんだこれ）
　舌先が皮膚を伝うたび、足裏から身体の真ん中を熱が突っ切った。腿が小刻みに震え、全身に新しい汗が吹き付けたようにわっと浮く。
「そ、ちょっ……、待て、俺が悪かった、から、完二」
　いきなりさっきまでの熱がどっと腹にぶりかえして、おまけに、
「……ぅ」
　屹立にどろりと熱の気配がして、殺しきれなかった声が喉元でわだかまり、おかしな呻きになった。
（なんでこんなんで……勃つんだ、俺）
　信じられなくて、思わずかぶりを振った。
「もういい、よせって汚い……」
「汚ねえから舐めてンだろ」
　乱暴に言って、完二が傷口を強く吸い上げた。
「────あ」
　それ以上声が漏れないように耐え、必死に即物的な熱をやり過ごそうと歯を食いしばり、口許を手で覆った。
（嘘だろ）
　呆然として荒い息を吐いていると、完二が片手で懐からてぬぐいを取り出して広げ、口許で裂いた。細めに切ったそれを、大塚の足許へくるくると器用に巻いて結んでくれる。
「先輩、そっちも出せよ。やってやっから」
　手当ての済んだそっと右足を芝生に下ろし、今度は左足に手を掛けてくる。
（まずい、さすがに見られたくない）
　慌ててはだけた浴衣をかき合わせながら、大塚は腰を庇いつつ後ろへずり下がった。
「いい。もういい。自分でするから」
「なに言ってンだ。自分じゃ舐められねえだろ、そんなとこ。…………ん？」
　凄んで言ってから首を傾げ、ややあってから完二が目を見開いた。
「あ」
　俺も似たようなタイミングで──思い出した。
（「だって自分じゃ舐めるの無理だろう、こんなとこ」）
　前に同じことを完二に言って、俺の方から仕掛けた。だまし討ちみたいに、手加減なしで。
「……その、完二」
「まっさか、嫌とは言わねえよな？」
　完二が口許が笑う形につり上がった。目つきの悪さはそのままで。
　往生際悪く後ろへジリジリ下がっていくと、途中でとうとう背中に木の幹が当たった。これ以上下がれない。
　どうも今日は風向きがよくない。こういう日は抵抗しても無駄だ。たぶん。
　自分から仕掛けるばかりじゃつまらないと思っていたけれど、一方的に主導権を握られたら握られたで、少し困る。いちいち知らない自分を暴かれて、打つ手がないままひたすら溺れてしまって、ますますバカみたいにハマってしまう。
　なのに、全然手放す気になれないから参る。
「……わかった」
　観念して、腹に力を入れた。
「でも、膝は自分でやるから勘弁」
　そう言うので精一杯だった。



　草むらで散々もみ合い、足許を手ぬぐいでグルグル巻きにされて、そのあとまた少しだけキスをした。いいようにされっぱなしなのが悔しかったから、今度はこっちから強引にくちびるを塞いで、舌先で白いエナメルみたいな歯を撫でたら真っ赤になって恨めしそうな顔で呻いたから、少し胸がすっとした。
　ひとしきり暴れて着崩れてくしゃくしゃになった浴衣をもう一度着せてもらい、ひとけの絶えた公園で飯を食い、鼻緒を直してもらって公園を出たころにはもう十時半を回っていた。都会にいるころなら「まだこれから」という時刻だが、沖奈から稲羽へ帰るとなるともうすぐ電車がなくなってしまう。本数も少なければ、終電時刻も早い。
（タイムリミットがあってよかった）
　学校も長期休み、その上帰る時間に制限がないと、ズルズル一緒にいたくなりそうで危ない。
　本当になにか変な病気に罹ったみたいだ、と思う。熱が高くて息が浅くなって身体が痺れっぱなしになる、やっかいな病。
　原因は紛れもなく隣にいる男だから、たぶん、口腔から接触感染したんだろう。
（なんだ、じゃあ逆だ）
　俺の熱がうつればいい、と思っていたのに、これじゃ口移しにうつされたのは自分のほうだ。
「なに考えてるんスか」
　手を繋ぎ、ゆっくり歩く俺に歩調を合わせてくれている完二が俺を覗き込んだ。彼はあまり気が利く性格ではないけれど、些細な気配を拾うのはとてもうまい。
　絶滅危惧種みたいな不良を気取った、けれども本当は心優しい、手先は器用なくせに恐ろしく不器用な生き物。
「いや……結構遅くなったから電車大丈夫かなと思って」
「まだ平気なはずッスよ。それよか足、痛くねえスか。俺、背中におぶってもいいッスよ」
「平気。手当てしてもらったから痛くないし」
　骨張った指がほんの少しだけ強く絡んできたから、まだ気遣われているのだとわかって少し居心地が悪くなる。いくら大丈夫だと言っても、彼は心配するのを止めない。振り回されて散々な目に遭っているくせに、ひとが良すぎる。
（そんなんだからタチの悪いのに引っかかるんだ。俺みたいな）
　その一方で、どうせ誰かに引っかかるなら自分だけにしておけ、とも思う。
「そうだ。先輩、家は大丈夫なんスか」
「菜々ちゃんには電話入れたけど……ちょっと遼太郎さんが怒るかな。俺より早く帰ればの話だけど」
「やっぱ堂島さん、忙しいんスか」
「犯人捕まったら捕まったでやることがたくさんあるらしいよ」
「ふーん……」
　気のない返事をして、完二が空を見あげた。つられて和臣もまた顎を上げる。
　照明が少ないお陰で、空にはたくさんの星明かりが砕けている。都会の空を思うと、立派な天然の花火だ。でも向こうに住んでいたら、いくらきれいな星空があってもきっとわざわざ見あげたりしない。あっちでは誰も彼もが地面を確かめながら下を向いて必死に歩いていて、立ち止まる暇も見あげている暇もない。
　稲羽の時間はゆるくて穏やかだ。物騒な殺人事件も解決したかに見える。
　そして、残りはあと半年たらず。
（一緒にいることがなくなったら……忘れるかな）
　ちらりと完二の横顔を眺めた。学校で会うことも、ちょくちょく店先に顔を出すこともできなくなったら──時間が経てばこの病は自然に消えてなくなるだろうか。麻疹みたいに。そう思ったら、急に胸の奥が甘く窪んだ。
「月がきれいだな」
　思わず呟くと、完二が首を傾げた。
「そうスか？　きれいっつーほど光ってねえけど。ほっせーし。……ンだよ、なに笑ってんだ」
「なんでもない」
　嘯くと案の定、完二がものすごく嫌な顔をしたから、よけいに笑いが止まらなくなる。
「……またなんか隠し事スか」
「隠し事なんてないない、別に大したことじゃないから」
「やっぱなんかあるンじゃねえか！　言えよっ」
「だから、ないってば」
「だったらさっさと言やぁいいだろ！」
「ちょ、よせ、待てまた転ぶ！」
　大塚は笑いながら完二にぎゅっとしがみついて、そっぽを向いた。
（はっきり言ったらパニックするくせに。……ま、夏目漱石なら大丈夫だろ）
　わざわざ教えてやらなければ、たぶん気づかれない。
　ただでさえ手持ちのカードが少ないのだから、貯めておくにこしたことはない。
（約束を破ったことは、とうぶん秘密）
　それから、甘ったるいキスは少し苦手なことも、足先を弄られたのがぶっ飛ぶぐらい気持ちよかったことも。
　暗い道を歩くのは好きじゃないけれど──完二と一緒なら、気にならないことも。
　しばらく、俺と月だけの秘密にしておこう。</description>
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         <pubDate>Tue, 18 Oct 2011 23:32:35 +0900</pubDate>
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