たいおん

 夜になって、少し冷え込んできた。
 アキラは立ち上がり、細く開け放していた窓を閉めた。素肌を晒して寝ころぶ男の肩が急に寒々しく見えて、自分のジャケットを脱ぎ、そっとかけてやる。
 ベッドに置かれていた掛布は埃にまみれていて、しかもよどんだ小屋の空気で少し湿気ていた。天日に干してはたきでもしないと到底使う気になれない。本人のコートは血に濡れてまだ湿ったままだし、服にいたっては血まみれなばかりか形を留めないほど破いてしまっていた。着ていたものも換えも、両方だ。
 男の額へ、そっと手のひらを当ててみる。少し、熱が高い。平素体温の低い男だけに心配だった。傷口から雑菌が入ったりしていなければいいけれど。
 怪我をすることが多いから、きれいなガーゼだけはたくさん持ち歩いている。何度も真新しい物に取り替えて、今は真っ赤になった用済みのガーゼが大量に部屋の隅へ積んであった。足が着かないようにさっさと燃して、埋めてしまったほうがいい。男の調子が戻ったらすぐにでも出発することになるだろう。いつ追っ手がくるかもわからない。
 男はよく眠っていた。呼気も落ち着いている。しかし、いつものことながら、静かに消え入っても気づかないのじゃないかと思うほど細かった。何度も何度も口元に顔を寄せて確かめ、確かめてはベッド脇の床に座り込む。それを繰り返した。何度目かの所作のあと、アキラは男の横たわるベッドの上に頬を載せた。
 すべての処置が済んだ後、何度か唇にキスを落としてやると、男は安心しきった面持ちで意識を失うかのようにことりと眠りこんでしまった。そのまま一緒に眠ろうかとも思ったが、疲れているはずなのに冴え冴えとしてしまって、ちっとも眠くならない。
 麻酔もなしに自らへナイフを突き立てた男の姿が、頭から離れなかった。ナイフを炙るように言ったのは、消毒と、それから出血を止めるために血管を焼く意味があったのだと後から気づいた。そのひどく手慣れた手つきを見れば、これが初めてではないのだと容易に知れる。
 Bl@sterも、生殺与奪を許したイグラでさえ、遊技の域を出ないものだったのだと改めて思う。そもそも、どちらも銃の使用はルール違反だった。自分自身、拳銃の扱いは男と一緒にいたこの三年の間で覚えたばかりだ。けれど、ずっしりと重く、冷たいグリップを握るのはどうしても好きになれない。拳銃は、人を殺すことを目的にした道具だ。本当は触りたくもない。
 生死に意味も見いだせなかった男が自らの銃創手当に手慣れているという事実は、最大限に肉体を活かし、敵をひとりでも多く倒すことが当然の場所に身を置いていたことを物語っていた。本人の意思など、まったく関係がない。……本当に腹が立つ。
 アキラは、ベッドへ投げ出された男の腕を取った。少しかさつく、形がよくて骨張ったそれに自分の手を重ねると、十字の傷をくるみこんで撫でた。ひりひりと、皮膚の一枚下で血液が粟立つ。最初は痛いだけだと思っていた感触は、今ではもうすっかり馴染んでしまって、じんわりと立ち上ってくる痺れと誘発される熱に心地よさすら感じる。
 たくさんの人を殺した手かもしれない。けれども、優しい手だ。
 アキラは、繋いだ手とは反対の手に持ったプレートを握りしめる。
 無意識にいじっていることが今までに何度もあった。男もまた、それを何度も見ていたはずだ。だが、ひっそりと佇む死人の影へ、男が悋気を見せたことはただの一度もない。それがかえって苦しい。
 しかも……殺してしまうところだった。
 男の背中が傾いで、石畳に膝をついたときは、自分の心臓が潰れたと思った。あんなにも痛烈な後悔は生まれて初めてだった。
(……持ってくるんじゃなかった)
 一緒にトシマを出るんだと、そう思って掴んできたはずなのに、いつまでも手放せなかった。どこかで葬ろうと思ったこともある。海に投げてしまおうかとも。けれど、できなかった。
 形があるから。執着が染みて、取れない。
 男と暮らす日々は命の危険と張り合わされているけれど、心地よかった。少しずつ豊かになる男の表情を見、わずかな言葉の中にある親愛を感じれば心が弾み──しかし、ふと指先に当たる冷たさでいきなり我に返る。
 忘れたいわけではない。忘れるわけはない。けれど、忘れるなと責められているようで、苦しい。時と共に風化する記憶がまるで罪のように思われて、何度も何度も反芻した。あのとき胸にのしかかった重さや、震えや、ぬくもりを。そんなことをしても苦しいだけで、きっと誰も幸せじゃない。わかっているのに、自分から不幸になることを止められない。
 自分がこんなに馬鹿な生き物だとは知らなかった。
 死んだ人間は生きている人間の斜め上に押しやられて、なにが起ころうともそこから動くことはない。それ以上の別れも、すれ違いも起こりようがない。そして、風化すればするほど芯だけが残って美しくなる。美化するのは勝手だ。けれど、生きている人間をないがしろにしていいはずがなかった。
(本当にバカだ……)
 今ここにある優しい手は、決して当たり前のものではない。そんなことは三年前、痛いほど思い知ったはずなのに。
 十字の傷に、唇で触れた。それから中指に。指のすき間に。それから──
 ちゃりん、と堅い音がした。
 瞬間、心臓がぎくりと跳ね上がった。
「アキラ?」
 耳の後ろで、低い声がした。
 驚いてアキラは跳ね起きようとし──そこで自分の体が横たえられていることに、初めて気づいた。
「え……?」
 部屋の中も、漆黒の色はいつの間にか払拭されて、青白い色味を帯びていた。一瞬、見当識を失った。
「なんで、俺……」
「眠っていたから」
 寒そうだった、と言う男に背中から抱き寄せられた。とたん、どっと体中が痺れて重く、熱くなる。意識したせいだ。わかりやすすぎた。
 いつの間に眠ってしまったのだろう。しかも、ベッドに引き上げられてもまだ気づかないなんて。眠れない、眠れないと思っていたのが嘘のようで、信じられなかった。いきなり眠りに落ちることができるような、そんなきっかけは思い当たらない。あるとしたら男へ戯れに触れていたことくらいで──それを素直に認めるには、自分の理性が邪魔だった。
「悪い。狭いだろ。いい……降りる。寒くない」
「俺が……少し寒い」
 慌ててもがくと、さっきよりも強く抱きしめられた。耳元に落ちてくる静かな声は、熱と疲れからかほんの少し掠れている。
 静かに背へ、頬をすり寄せられる感触が心地よかった。それだけで満ち足りてしまって、今まで腕から抜け出ようとしていたくせに、いきなり離れたくなくなった。
「アキラ」
 掠れた声でまた呼ばれる。
 身じろぎして正面に向き直ると、軽く男の顎が浮いた。
 口づけしてほしい、と促されていた。
 いくらでもしてやる、と約束した。だから──男の頬を両手で包んでやる。手の中で男が大人しく目を閉じた。愛おしいと、思った。男同士の、本当なら知らなくてもよかったはずの触れあいに、指先が熱くなってぞくりとうなじが粟立ち、こめかみが痺れた。
「ん、……」
 ゆっくりと、唇の先で触れては離れる。そんな口づけを繰り返した。今日は自分の冷えた唇が、男へとぬるく染まってじんとする。
 どこからどこまでが血の痺れで、交接の熱なのか、全然区別がつかなかった。
 実のところ、他人とこんな熱を交わしたことがない。うまいやり方など知らなくて、ただ柔らかい特別な皮膚が穏やかに触れあうのが好きで、気持ちいいと知ったから、するだけだった。本当はどうするのが正解なのか知らない。興味もなかった。本当は男だとか女だとか、そんなことも関係ない。
 触れたいからする。ただ、それだけだ。
 もう少しだけ深く触れたくなって、アキラが強く唇を押しつけると、今度は男が噛みつくように口づけてきた。
「ん……!」
 するりと舌が滑り込んできて、易々と歯列を割り、アキラの舌先をあっという間に絡め取る。裏側をくすぐられて、じんわりと唾液が溢れてきた。どこか舌に甘い口当たりのそれを、男は舌先ですくいとってゆく。まるで隅々まで食らわれているみたいだと思った。
「ふ、……ぅ」
 自分からも舌を差し出すと、すかさず甘噛みされる。逃げたいのにすがりつきたいような相反する心地に、目眩がした。
 たぶんこの男の愛撫もキスも、なにか考えた手管とは違う。互いの本能に根ざした触れあいは、どこか幼い。けれどもまるで底のない熱の渦に呑まれるみたいな感覚に、不快さは感じなかった。むしろ、いつまでも浸かっていたいような気さえする。
「アキラ」
 触れあった唇のすき間で囁かれた。
「……どうした?」
「いや、……呼びたかった」
「なんだよ」
 鼻先を擦り合わせて笑い、キスが重ねられる。身をよじると、うっかり腰の辺りが触れあってしまって、背骨が震えた。
「あ……」
 はずみで声まで漏れて、あまりの気恥ずかしさに頬がかっとした。すると、男がすかさず腿の間に自分の脚を割り込ませてきた。
「…………っ!」
 肩をこわばらせたアキラの、中心にあるそれへと触れてくる。
「や……よせ、いいから……っ!」
 歯がみしてアキラはもがいた。だが、男の手も腕もゆるまない。
 そうすると気持ちいいことが、ばれてしまったから。
 男には、止める理由がなかった。
「っ……!」
 今度は優しく握られて、ひくりと下肢がわかりやすく震えた。
 他人の指はどこに触れてくるのか予測がつかなくて、そのたびにあわてふためく。見知らぬところへさらって行かれそうで、身が竦みかけた。
「……アキラ」
 わずかに熱を帯びた声がして、掻き抱くようにされた。肩口に唇が当たり、すう、と男が大きく息を吸い込んだのがわかる。匂いを嗅いでいるのだとわかった。男がよくしてみせる仕草だった。
 自分も同じように男のうなじへ唇を寄せ、息を吸い込んでみる。どこか懐かしい匂いがした。少しおかしくなって、アキラは吐息だけで軽く笑った。毎日一緒にいて、懐かしいもなにもないのに。
「あ──……っつ!」
 男の擦りつけるように手が動き、同時に肩へ噛みつかれた。痛い、と抗議の声を上げたら、今度はそこをしつこく舐められた。ぴちゃ、と生々しい音が耳に遠くない場所で聞こえ、手の動きと重なり、思わずアキラは胸を喘がせた。背を丸めて、息を詰める。次々と押し寄せてくる真新しい震えを堪えていると、やがて男の指がジーンズのボタンをこじあけて、直に触れてきた。
「っあ……待っ……」
 ひやりとした指がアキラの熱を引きずり出した。その温度差にまず、震えが来る。そしてふと、なにかおかしいと思った。さっきまで男の熱のほうが高かったはずなのに、指先がどうしてこんなに冷たく感じるのだろう。
 だが滑らかな指先の手当たりに、それどころではなくなった。
「う──ン、……ん」
 すでに先走りが先端にしみ出しているのが、男の手の動きを通して知れる。気づけば自分の腰が揺れていた。ひとり先に濡れていく、自分の浅ましさにめまいがする。いくらなんでも興奮しすぎだった。
「も、……よせっ」
「嫌か」
 言われて、とっさに答えられない。恥ずかしいんだと説明する余力がなかった。
「アキラ」
 耳元で囁く男の声が、乾いてかさかさしている。胸を突っぱねて顔を覗きこむと、瞳の色がいつもより強い、紫紺の色に見えた。目縁が少し腫れぼったい。
 また、少し顎が浮いた。
 覚えたばかりのキスをねだる仕草に、この男も欲情しているのだとわかって、少しほっとした。
 口づけしながら、アキラも男の熱に手を伸ばした。ズボンの前を手探りでくつろげて、男に触れる。
 男も固くなっていた。指で少し持てあます大きさのそれに、思わず喉が鳴る。昔、強引に突き入れられたことを思い出して、しかし振り払うようにかぶりを振った。
(……違う)
 人を殺した手で、持てあました興奮を収めきれず縋りついてきたあの日と今日を、ごちゃ混ぜにはできない。
 この男の手を、優しいと信じられる。今は。
 アキラは思い切って、自分から衣服を脱ぎ捨てた。すると、少し驚いたようにした男もまた、下肢にまとわりついていたズボンを蹴り脱いだ。


 抱き合って、直に触れあう皮膚の感触に、衣服がどれほどお互いを隔てていたか知った。
 もう、後には退けない。そう思った。男の背中に指が触れた途端、自分がどうしようもなく欲情していることがはっきりわかった。
 アキラは男の張りつめた体に、手のひらを這わせた。
 筋肉のうねりを、背中を、抱えている傷ごと包んでやりたい。
(ああ……おんなじなのか)
 唐突に思う。男もまた、自分の傷ごと包もうとしているのかもしれない。だから、いつまでも手放せない執着を、決して責めたり哀れんだりはしない。
 ただ、優しくしたい。たぶんそれだけだ。
「……っ、……ッァ!」
 尖った粒を押しつぶすようにされて、声がはねた。鎖骨も、胸も、あばらも、ひとつずつなにか確かめるように舐められ、舌先でこねるようにされて、アキラは胸を反らせて喘ぐ。あちこちに落ちてくるキスは、灼けるぐらい熱かった。舌先の感触ばかりで頭がいっぱいになって、どんどんぼうっとしてくる。少しずつ、声を抑えようという気がなくなってきていた。
「あ──あぁ、っ、う、ん」
 蕩けた自分の声が恥ずかしいと思う余裕もなくなって、ただ痺れと熱に溺れていくのが気持ちいい。
「アキラ」
「ん……、ん」
 突然、ぱたりと上から滴が落ちてきた。
 男が上から自分を覗きこんでいた。はらはらと落ちかかる黒髪の下から、水分の多めにまぶした瞳と、いつもより少し血色のいい肌が覗いている。
 ややあって、落ちてきた水分は、ああ汗だったんだなとわかった。
 それと同時に──片足を高々と持ち上げられた。
「おい! ちょっ……やめろって!」
 ビックリして、いきなり目が覚めたみたいに羞恥心が舞い戻ってきた。男の目の前にさらけ出されているはずの下肢を想像し、羞恥に本気で身をよじる。そこでふと、眼前にそそりたつ自分のものを見つけてしまった。
「おい! ……よせ、バカ!」
 生々しすぎて、頭を殴られたみたいな衝撃を覚えた。蹴ってやろうとしたが、抱えられた脚はぴくりでもない。もう片方も上から体重がかけられているせいで、蹴りを入れるどころか身動きすらうまく取れなかった。
「聞いてるのか、やめろって……ア!」
 くるぶしの内側に、歯を立てられた。いきなり膝が震え、アキラは驚いて思わずぎゅっと瞼を閉じた。その隙に男の舌はぐるりと滑って、アキレス腱へと回っていく。
 そんなところ、感じるわけがないと思うのに、噛みしめた唇のすき間から、声が甘ったるい色を帯びていくつも飛び出す。腿の裏側を押さえられて舌先と唇が内腿にたどり着く頃になると、下腹がぶるぶると震えて止まらなくなって、放っておかれた前からもとろりと滴がこぼれ落ちた。
 なにかにしがみつきたいのに男の背に回そうにも届かなくて、アキラは空いた腕でシーツをかき混ぜた。
「も……ほんとに……っ」
「……嫌か?」
 また、聞かれる。
 そういう言い方をしないでほしかった。自分をかなぐり捨てられるほど理性が飛んでいないから、答えられない。けれど無視するのも嫌で、アキラは目を閉じたまま、必死に息を吐きながら首を振った。
 男がなにをどう解釈したかは知らない。
 だから、いきなり指が突き入れられるなんて、予測できるわけがなかった。
「ン、ああ、あ……──ああっ!」
 唇からあふれ出す悲鳴が、今までの何倍も甲高かった。わかっていても、押さえきれない。いきなり太い束をねじ込まれてひどい痛みと圧迫を感じるのに、指を飲み込んだ場所が疼いて、奥から重い快感がどろりと染みだしてくる。
「アキラ」
 ぐ、っと上げられた脚が胸へつくほど押された。胸の上に感じる男の重みと体温に、なぜか唐突に涙がこぼれ出た。もう体がどこもかしこも、普通に動いていない気がする。重なったお互いの体の間で、お互いのものが擦れ合い、指の感触とないまぜになって快感がいきなり膨れあがった。
「や……も、……やめ……ッ!」
 もういい、それ以上しなくていいと、喘ぐ声のすき間からアキラは必死に訴えた。指先を押し込まれると、そこからびりっと痺れがきて、同時にぐちゅぐちゅと湿った音を立てる。それだけでも耐えられないのに、男のきれいな長い指が中へ入っていることを想像してしまうから、本当に窒息しそうだった。
「……んっ!」
 ふいに、男が唇が触れてきた。霞む目をこじ開けると、真摯な紫紺の瞳が間近にあった。
「もう、い……っ」
 もう一度言って、アキラはお互いの腰が擦れるように下肢を揺すった。恥ずかしさで死にそうだったけれど、これ以上待っていたら、焦れて苦しくて、どこかが本当に壊れてしまいそうだった。
「アキラが……辛いだろう」
 驚いたように瞬いてから微かに首を振って、男が言った。
 もう自分から触れてやるどころではなくて、なにもしてやっていないのに、男は汗でぐっしょりだった。しかし、これ以上ないほど男が欲情しているとわかる反面、かすかに気後れしたものを感じる。男も、ひょっとすると昔の交わりを思い出しているのかもしれなかった。
 アキラは、汗で額に張り付いた髪を払ってやった。男が眩しそうに目を眇めた。
「いいって……、言ってる」
 少し、笑ってやる。安心しろと伝えたくて、首筋を腕に捉えて引き寄せ──ちいさく、名前を呼んでやった。
「……っ」
 息を呑んだ男が、じっと見つめ下ろしたあとに唇を重ねてくる。どんどんと深くなるそれに答えてやるうちに、そのままの姿勢で、熱があてがわれ──気が遠くなるほどゆっくり、男が押し入ってきた。
「──ンン、ん、んあ、あ、あ……ッ!!」
 途中で唇を離され、嬌声がなだれ出た。
「あ、あ、……く、あ……ッ!」
 なにか吐き出さないと、ぎっしり埋め尽くされる圧迫感がすさまじくて、堪えられそうにない。足指まで全部折り曲げて、最初の衝撃に耐えた。どんどん固さがめり込んで、やがて指も届かなかった場所まで押し込められると、意識が飛びそうになる。
「アキラ……」
 ため息のような声音で呼ばれた。震えながら瞼を開くと、男のまなざしに絡め取られて呼吸の仕方を忘れた。
 優しくて、今にも晴れた空へ蕩けてゆきそうな柔らかい色をしていた。自分へまっすぐに向かってくる甘さが染みていた。
 なにか言ってやりたいのに言葉にならない。わななく唇に男の指がそっと触れてくる。ひりひりする感触の指を、アキラはそっと噛みしめた。男との触れあいはどこも痺れすぎていて、なにか確かな感触が欲しかった。朦朧とした意識の中、すぐに肩口へ噛みつきたがる男の気持ちが、少しだけ分かった気がした。
 背を丸めるように深く抱き、自分の指を咥えさせたまま男が優しいキスをした。はずみで交接がもっと深くなって、アキラは必死に男の背中へしがみつき、指を噛んだ。
「──……」
 もう一度、名前を呼んだ。
 自分の深いところで、男の固いものが震えるのがありありとわかった。
「く、あッ、……ああ、……あ!」
 片方の足を担ぎ上げ、もう片方の腿を膝でまたいだ格好のまま、男が屹立をねじ込んでくる。激しい波に、アキラは悲鳴を上げながら仰け反った。
 自分の体なのに、そんな奥にある熱いものは、自分も知らない。
 時間をかけて引き上げられた体は信じられないほど脆くて、二度三度擦られた瞬間、あっという間に真っ白になった。
 前が、触れられたわけでもないのに弾けた。
「──……ッ! はあ、ッ……」
 なのに奥の痺れはちっとも収まらない。限界と思った熱をさらに塗りつぶされ、どこまで体が持って行かれるのかわからず、アキラは置いて行かれまいと男の肩へ爪を立てた。
 中へ染みだした男の先走りがぐちゃぐちゃと音をたてながら抽出を助けていて、突き入れられる間隔がどんどんと狭まってゆく。際限のない衝動に、アキラはしゃくり上げるような浅い呼吸を繰り返した。
「……は」
 男が切なげに息をついた。すると、たったそれだけのことに自分の奥がまた甘い痙攣を起こして、男のものをぎゅっと食い締める。
 内側で、激しく男が跳ねた。
「アキラ……」
 男が長い睫を震わせて、堪えきれないとでもいうように覆い被さってきた。
「──あ、あ、く、ああ、あ……ッ!!」
 激しく何度も突き入れられ、男が中で脈打って、深いところへぐっしょりと染みていく。
 また目の前が真っ白になるような絶頂感に襲われた。

 喘ぎ疲れて嗄れた喉で、アキラはもうひとつ、男の名前を呼んだ。